りぼんの読書ノート

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カレーソーセージをめぐるレーナの物語(ウーヴェ・ティム)

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ドイツと言えばソーセージですが、地名を冠したテューリンガー、ニュルンベルガー、フランクフルターや、製法や材料に由来するヴァイスヴルスト、レバーブルスト、ブルートブルストなどと比べると、北部で人気のカレーソーセージというのは、ちょっと格が落ちるように思えます。だってドイツとは関係のないカレー粉やケチャップで味付けされているのですから。

しかしこれは美味しいのです。ベルリン名物ですが、発祥地と年代には諸説あって定説はない模様。本書はそんなカレーソーセージが、戦後のハンブルクで誕生したというヒストリアを遊び心たっぷりに描いた作品です。もちろん100%フィクションですけれどね。

幼いころにハンブルク港の屋台で食べた、レーナおばさんが作るカレーソーセージを忘れられない「僕」は、80歳をすぎて視力を失い施設で暮らしているレーナを訪ねて行きます。そこで彼女が語ったのは、終戦直前の1945年から始まる奇想天外のストーリーでした。

遊び人の夫は行方不明で、まだ若い息子を軍に徴用されたレーナは、ハンブルク市役所の食堂に勤めながら共同アパートの屋根裏部屋に一人暮らし。ナチの家主や、おせっかいな隣人や、天才料理人ながら反ナチ容疑で左遷されたコックらとともに戦争末期を生き延びていました。しかしそれが、ひとりの脱走兵を匿ったことで一変。彼女は終戦を脱走兵に知らせないまま部屋に匿い続けたのですが、そんな生活が長く続くわけはありません。

やがて彼が部屋に置いていった銀の優秀乗馬者章が、イギリス軍の経理顧問官、北リスの毛皮、大量の材木、ウィスキー好きな女性ソーセージ工場主、金髪のイギリス人女性、割れたケチャップ瓶、語り手の父親などと関わって、カレーソーセージを生み出すに至るのです。食べ物が与えてくれる幸福と苦悩のエピソードがぎっしりと詰まっており、クロスワードパズルの断片などの仕掛けも楽しめた作品でした。

2018/9