りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2018-01-01から1年間の記事一覧

レディ・ヴィクトリア 3(篠田真由美

19世紀末、ヴィクトリア朝のロンドンを舞台にして、天真爛漫なレディ・シーモアと、国際色豊かな使用人たちが活躍する「歴史ミステリ」の第3弾は、日本と関わる物語でした。 明治維新から17年後。明治政府の鹿鳴館外交が欧州列強政府から失笑をかってい…

辺境の老騎士 3(支援BIS)

中世ヨーロッパのような架空の世界を舞台とする「グルメエピックファンタジー」の第3弾では、旅の仲間であった女騎士ドリアテッサの辺境競武会での奮戦と、かつてバルドが敬愛したアイドラ姫の忘れ形見でパルザム王となったジュールラントによって王都に迎…

辺境の老騎士 2(支援BIS)

中世ヨーロッパのような架空の世界を舞台とする「グルメエピックファンタジー」の第2弾。死に場所を求めて長年仕えた領主の元から去った老騎士バルドの放浪の旅は、同行する仲間を得て、生きるための旅へと変わっていったようです。 『第1巻』で道連れにな…

辺境の老騎士 1(支援BIS)

「支援BIS」とは奇妙なペンネームですが、企画とか集団ではなく、あくまで個人の作家とのこと。本書は、小説投稿サイト「小説家になろう」で連載されていたWEB小説に加筆して書籍化された作品です。 舞台は中世ヨーロッパのような架空の世界。2つの月…

ローカル・カラー/観察記録(トルーマン・カポーティ)

カポーティのノンフィクション・エッセイ集『犬は吠える』の第1分冊であり、第2分冊の『詩神の声聞こゆ』も同じ「ハヤカワepi文庫」から出版されています。著者は、自作を批判されて落ち込んでいる時に出会ったアンドレ・ジイドから「犬は吠える。がキャラ…

二十一の短篇(グレアム・グリーン)

1954年に刊行された短編集ですが、収録されている作品は1921~41年に書かれた初期のものです。 喜劇、悲劇、ホラー、不条理とさまざまなジャンルの作品が並んでいますが、共通して流れているのは淡いペーソスですね。 「廃物破壊者たち」:廃屋に…

ルイ・ボナパルトのブリュメール一八日(カール・マルクス)

『レ・ミゼラブル』の続編である『コゼット』を読んで、彼女と夫マリウスが抵抗したナポレオン三世のクーデター過程を復習しようと思い、学生時代に読んだ本書を再読してみました。 1851年12月2日のクーデター直後の1852年の1月から3月にかけて…

11/22/63(スティーヴン・キング)

タイトルは「1963年11月22日」、ケネディ大統領がダラスで暗殺された日付を意味しています。本書は「過去へ通じる穴」の存在を知った平凡な30代の英語教師ジェイクが、ケネディ暗殺を阻止するために過去を改変しようとする物語なのです。既に何度…

知の果てへの旅(マーカス・デュ・ソートイ)

オクスフォード大学教授にしてイギリス王立協会フェローである数学者が、「人間に知りえないこと」の最先端をわかりやすく解説した作品です。『素数の音楽』で数論を、『シンメトリーの地図帳』で群論を解説してくれた際に、最後には数学と宇宙との関わりま…

路上のX(桐野夏生)

両親の失踪後に預けられた叔父の家でネグレクトされ続けた真由、継父から性的虐待を受けたリオナ、レイプにあって望まない妊娠をしたミト。それそれの理由で日常生活を失い、家を出た3人の女子高生たちは、男たちのむき出しの欲望が襲い掛かってくる路上で…

コゼット 下(ローラ・カルパキアン)

『レ・ミゼラブル』の続編である本書では、『上巻』は長いプロローグのようなものでした。しかし『下巻』ではいきなりクライマックスシーンが訪れます。ルイ・ナポレオンによるクーデターを阻止するための闘いでバリケードに籠ったマリウスが、一発の銃弾に…

コゼット 上(ローラ・カルパキアン)

ヴィクトル・ユゴーの代表作である『レ・ミゼラブル』は、1832年の六月暴動を生き延びたマリウスと養女コゼットの結婚を見届けたジャン・ヴァルジャンが静かに世を去る場面で終わります。しかしこれ以降のパリでは、 第二共和制を誕生させた1848年の…

寒い国から帰ってきたスパイ(ジョン・ル・カレ)

冷戦の最中の1963年に出版された、巨匠初期の傑作です。後の「スマイリー3部作」の主役たちは端役で登場。近作の『スパイたちの遺産』で本書の背景が描かれたのを機に手に取ってみました。こんな有名な作品が未読だったとは! イギリス情報部がベルリン…

パリに終わりはこない(エンリーケ・ビラ=マタス)

著者は1948年に生まれたバルセロナ出身の作家なので、もう大ベテランであり、これまでにも訳書も数冊出ているようですが、今まで知りませんでした。 本書は、著者が20代の頃に2年間、パリでマルグリット・デュラスの所有するアパートに住んで文学修業…

レオナルドの扉(真保裕一)

イタリアの小村で時計職人の祖父と2人暮らしの16歳の少年ジャンには、空を飛ぶ機械を発明したいという夢がありました。そんなジャンに協力するのは、村長の息子で親友のニッコロと、2人を応援する少女マドレーヌ。 しかしそんな日常は、突然村に侵入して…

レディ・ヴィクトリア 2(篠田真由美)

『第1巻』のラストにちょっとだけ登場した新米メイドのローズが、このシリーズのヒロインというのには驚きました。前巻は、ローズが働くことになる風変わりなシーモア家を説明するための、長いプロローグだったのですね。そういえば著者は、このシリーズで…

遺訓(佐藤賢一)

山形県鶴岡市の出身の著者が、戊辰戦争をほぼ無傷で生き残った庄内藩の奇跡を綴った『新徴組』の続編にあたる作品です。なぜ明治維新の際に敵であった元庄内藩士が、西郷隆盛の「遺訓」を編纂し、上野の銅像を立てる際の発起人となったのか。明治初期の秘話…

2018/10 腐れ梅(澤田瞳子)

2010年にデビューしてから、早くも2度も直木賞候補となった澤田瞳子さんが一皮剥けた感じです。どれも昨年刊行された作品で、半歩遅れて読んでいる感じですが、宮部みゆきさんや、桐野夏生さんや、ル・カレさんの新作を抑えて今月の1位とするにふさわ…

腐れ梅(澤田瞳子)

澤田瞳子版「北野天神縁起」ですね。平安時代中期、色を売って暮らしを立てている似非巫女の綾児は、似たような境遇ながら年増で不細工な阿鳥から、新興宗教を興して金儲けをしようと誘われます。40年ほど前に非業の死を遂げた菅原道真に目をつけ、往来で…

しゃばけ16 とるとだす

2001年に日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞した、事実上のデビュー作にして代表作である「しゃばけシリーズ」も、2017年の本書で16作。2作めからは1年1冊のペースでコンスタントに出版され続けている長寿シリーズになりました。 「とる…

ネヴァーランドの女王(ケイト・サマースケイル)

1900年に生まれて94年の生涯を奔放に生きた実在の女性、ジョー・カーステアズの伝記です。まずは、彼女の経歴を追ってみましょう。 ロックフェラーを助けてスタンダード石油を興した祖父から巨万の富を引き継ぎ、結婚と離婚を繰り返す美貌の母親とは不…

まほろ駅前狂騒曲(三浦しをん)

物語の舞台は、あきらかに著者が生まれ育った町田をモデルとしている東京南西部の大きな町。その駅前で便利屋を営む多田と、居候の行天という、2人のバツイチ男たちが騒動に巻き込まれるシリーズの第3弾は、完結編となったようです。 今回の騒動の発端は、…

スパイたちの遺産(ジョン・ル・カレ)

著者初期の傑作である『寒い国から帰ってきたスパイ』の背景にあった事情を、後に著された『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』にはじまる「スマイリー3部作」を踏まえた大きな背景の中で再構成した作品です。 視点人物は、英国情報部の「隠密セク…

ファミリー・ライフ(アキール・シャルマ)

1970年代にインドのデリーからアメリカに渡った家族と共に、異なる文化に馴染もうとしていた少年アジェにとって、名門校に合格した兄の存在は大きなものでした。しかしその兄が入学目前にしてプールの事故で脳を損傷。意識が戻らなくなってしまい、家族…

ぼくの兄の場合(ウーヴェ・ティム)

1940年にハンブルクで生まれた著者の自伝的作品は、家族の思い出を綴りながら、ドイツにおけるナチズムの記憶についても、大きな問題意識を投げかけました。 著者の16歳年上のカールは、ヒトラーユーゲントの教育に染まった世代の一員です。武装親衛隊…

デンジャラス(桐野夏生)

『ナニカアル』で林芙美子のダブル不倫を「創作」し、『In』で島尾敏雄・千代子夫妻の愛憎関係を描いた著者は、谷崎潤一郎が築いた「家族帝国」をどのように描いたのでしょう。 本書の語り手は、谷崎の3番目の妻・松子の妹で、既に寡婦となって谷崎と同居…

文盲(アゴタ・クリストフ)

『悪童日記』の著者が、自らの半生を綴った自伝です。もともと自伝的な要素を含む『三部作』と著者の実際の半生がどう異なっているのか、興味深く読みました。『昨日』の巻末に収録されているの来日記念公演「母語と敵語」と重複する点があるのは、出版と公…

微睡みのセフィロト(冲方丁)

『マルドゥックシリーズ』や『シュピーゲルシリーズ』の原型となった、著者の原点ともいえる作品です。 通常人である「感覚者(サード)」に対して、超次元的能力を持つ「感応者(フォース)」が登場した世界。人類を二分した破滅的な戦乱が終結して17年、…

海を照らす光(M・L・ステッドマン)

20世紀初頭の西オーストラリア。第1次大戦から帰国したトムは、「人々からも記憶からも充分に離れ」、灯台守となって孤島ヤヌス・ロックに赴任。最寄りの町で知り合った朗らかな妻イザベルと結ばれ、幸せを意識し始めた2人に転機が訪れます。 それはイザ…

鯖猫長屋ふしぎ草紙 3(田牧大和)

かつての義賊「黒ひょっとこ」で今は画描きの青井亭拾楽が、鯖縞模様が美しいオス三毛猫サバと移ってきた長屋を舞台とする、ちょっと不思議なお江戸ミステリの第3弾。たびたび霊感を発揮して長屋の危機を救ってきたサバはもはや人間よりも偉く、長屋の通称…