りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-01-01から1年間の記事一覧

予定日はジミー・ペイジ(角田光代)

思いがけなく妊娠してしまい、1月9日(ジミー・ペイジの誕生日)が予定日と告げられた女性の、マタニティ日記。後書きを読むまで、これは実体験を題材にした小説で、角田さんもついに母親になったのか・・と思っていたのに、全くのフィクションなんですね…

灰色の輝ける贈り物(アリステア・マクラウド)

短編集『冬の犬』の作品より以前に書き表された、8編の短編集。寡作でなるマクラウドの小説を全て読んでしまいました。これ以上、彼の作品を読むことができないというのは、寂しいことです。 もちろん本書の8編も全て「珠玉」です。初期の短編を集めた本書…

この人と結婚するかも(中島たい子)

ゼーバルトを2冊続けた後は、30代女性の等身大感覚に戻りましょう。出会いの度に「この人と結婚するかもしれない」という予感にときめき、毎回毎回裏切られてきた、ちょっとイタイ女性の節ちゃんが主人公。 美大の学食で話しかけてきた、感じのいい男性。…

アウステルリッツ(W.G.ゼーバルト)

2冊続けて、ゼーバルトを読んでしまいました。『土星の輪』や『移民たち』と同様に多数の白黒写真を活用しながら、建築歴家であるアウステルリッツの不思議な人生が、偶然彼と出会って彼の博識ぶりに感嘆する男性によって語られていきます。 そもそもアウス…

移民たち(W.G.ゼーバルト)

色褪せた白黒写真と、覚束ない記憶を綴る文章の不思議なコラボレーション。記憶の海からランダムに浮かび上がってくる断片の寄せ集めのようなのに、全体を俯瞰するとひとつの形がおぼろげに現れてくるのです。 20世紀の前半に故郷を出てそれぞれ長年異郷で…

吉原手引草(松井今朝子)

直木賞受賞作というので期待して読みましたが、ちょっとがっかり。「知識とテクニックで書かれた小説」という印象を持ってしまったのです。 構成はよく出来ていると思うんですね。吉原一の花魁と言われた葛城に、いったい何が起こったのか。「数ヶ月前に起き…

オールド・エース(アニー・プルー)

『シッピングニュース』で、北の果てニューファンドランドの厳しい自然の中で生きる人々を描いた作者ですが、本書の舞台は、一転してオクラホマのパンハンドル地帯。そこは、かつては「No Man's Land」と呼ばれたこともあり、周辺のどの州からもリクエストさ…

戦争の法(佐藤亜紀)

佐藤さんが日本を舞台にして書いた、唯一の小説です。1975年に突如として日本から独立を宣言し、街にはソ連兵が駐留するようになった日本海に面したN県で、ゲリラ兵となった中学生の物語。 街はいきなり崩壊するのです。普段の生活では、普通の市民たち…

美しき傷(シャン・サ)

天安門事件で中国を出てフランスに移住し、フランス語で小説を書くシャン・サさんが、中国史上、稀代の悪女として名高い則天武后の心情を再構築した『女帝』に次いで描いてみせたのは、アレクサンドル大王でした。 女性のような美少年だったアレクサンドロス…

国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ(河治和香)

「侠風」と書いて「きゃんふう」と読ませるタイトルは、主人公の娘が気が強くて跳ねっかえりなのに純情な「おきゃん」であることをあらわしてしています。 主人公は、人気の浮世絵師・歌川国芳の娘・登鯉(とり)。国芳というと、巨大な骸骨が襲い掛かってく…

均ちゃんの失踪(中島京子)

読み始めてから、この本のタイトルが「坊ちゃんの失踪」ではないことに気づきました(笑)。『FUTON』に『イトウの恋』と、過去の名作から発想を得た作品のある著者の本ですので、勝手に漱石へのオマージュかと思ってしまったようです。^^; 「均ちゃ…

オクシタニア(佐藤賢一)

1209年の十字軍結成から1244年のモンセギュール陥落まで、35年の長きに渡る「アルビジョワ十字軍」の歴史を、信仰と信念と愛情の物語として描ききった渾身の一作です。同じカタリ派弾圧をテーマにした帚木蓬生さんの『聖灰の暗号』を読んだのを機…

血と暴力の国(コーマック・マッカーシー)

90年代に著された記念碑的な国境三部作(『すべての美しい馬』、『越境』、『平原の町』)以来となるマッカーシーさんの新著は、なんと1980年のアメリカが舞台のクライム・ノヴェルでした。 ヴェトナム帰還兵のモスが荒野で発見した自動車には、死体と…

黒の過程(マルグリット・ユルスナール)

中世から近世へと大きく移り変わりつつあった16世紀ヨーロッパでは、宗教と科学がせめぎ合う中で、内乱や革命や異端弾圧の嵐が吹き荒れました。同時代のあらゆる知を追及した架空の錬金術師ゼノンの生涯は、既成思想が崩壊する戦後の時代を生きたユルスナ…

2007/9 ミノタウロス(佐藤亜紀)

月1冊のペースで読んでいた『世界の歴史シリーズ(J.M.ロバーツ)』を、最終10巻まで読み終えました。「現代に対する影響」の視点から編纂されたこのシリーズは、歴史は単なる学問ではなく、今この瞬間に起きている問題を理解するためのものであるこ…

俳風三麗花(三田完)

大学教授を父に持ち、女学校を卒業して花嫁修行中のちゑ。女子医学専学生として女医を目指している、モダンガール風の壽子。屋形船の句会で同席して句会メンバーとなった、浅草芸者の松太郎。高浜虚子門下の暮愁先生が主催する句会に集う、妙齢の女性たちの…

滝山コミューン1974(原武史)

この本は、こう紹介されています。この歌に違和感を覚えた人も、懐かしく思う人も、ぜひお読みくださいと。 ひとりのちいさな手 なにもできないけど それでも みんなの手と手が あつまれば 何かできる きっとできる 70年安保を最後にして「政治の季節」は…

村上春樹、河合隼雄に会いにいく(村上春樹、河合隼雄)

村上春樹さんが、心理学の大家である河合隼雄さんを訪ねて対談。 現代における物語の可能性や、コミットメントとデタッチメント、さらには結婚観や阪神大震災やオウム事件といった問題まで,対談時から10年以上たっても日本人が直面しているテーマが、主に…

楊令伝2(北方謙三)

遼からの独立戦争に突入した女真族のもとで、幻王として残虐の限りを尽くしていた楊令が、ついに、かつての仲間たちのもとに戻ってきます。一方、江州では方臘が宗教団体をベースとした大規模な反乱を企て、さらに南方では小規模ながら梁山泊の旗が再び掲げ…

明日この手を放しても(桂望実)

19歳で途中失明して、司法試験を受ける夢を失ってしまった凛子。彼女を襲った不幸は、それだけではありません。一家を照らす太陽のようだった母は、突然の事故死。やっと売れ始めてきた漫画家の父は、突然の失踪。 父が失踪前に連載を始めていた、中途失明…

サフラン・キッチン(ヤスミン・クラウザー)

2つの祖国のはざまで自らのアイデンティティを模索する母娘の物語。 母マリアムは、革命前のイランの地方都市で将軍の娘として生まれました。父の使用人アリと恋に堕ちて父の不興をかい、イギリスに送られたままイギリス人青年と結婚して娘を授かり、平穏な…

蛇行する川のほとり(恩田陸)

4人の女子高校生が交互に語ることによって明らかにされる、12年前の事件の真相・・・恩田さんの得意のパターンです。 第一章は、毬子の視点。憧れていた先輩の香澄と芳野に誘われて、演劇祭の舞台背景を仕上げるため「蛇行する川のほとり」にある香澄の家…

私が語りはじめた彼は(三浦しをん)

「私は、彼の何を知っているというのか?」。ダブル不倫の末に、妻子を捨てて再婚した大学教授と接点を持った者たちが次々と登場して、自分の人生を語っていきます。それぞれの物語に登場するのは、教授本人ではありません。教授と繋がる誰かが、教授と繋が…

建てて、いい?(中島たい子)

PMSに苦しんだり、漢方薬で身体を癒したり、働く女性は楽じゃない。中島さんの小説は、どれも、女性特有の悩みを等身大で描いてくれて共感してしまうのですが、今度のテーマは、「家を建てる」! アパートの階段でゴミ袋を持ったまま滑って転んだ瞬間に、…

ケプラーの憂鬱(ジョン・バンヴィル)

『バーチウッド』 の前に書かれた小説です。 「ケプラーの法則」とは、天体の運行を理論的に解明するなかで発見された「光の強さや太陽の引力は距離の二乗に反比例すること」や、「惑星が楕円軌道を描くこと」。ガリレイやニュートンの先駆者として、古典物…

冬の犬(アリステア・マクラウド)

マクラウドはいいですね。同じカナダ人作家のアリス・マンローと並んで、「珠玉のような短編」という言葉がぴったりする作家です。イングランドに追われて、スコットランド高地からカナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトンへと移り住んできた者たちと、その子…

ジブラルタルの女王(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

斜陽の17世紀スペインに生きた剣士『アラトリステ』の華々しくも物悲しい活劇譚シリーズの著者による、女性が主人公のクライムストーリー。 南スペインで「女王」の異名を取る謎めいた女性の半生をたどる作家は、まだ30代半ばにして大富豪となった彼女の…

捜査官ガラーノ(パトリシア・コーンウェル)

大ベストセラー作家となったコーンウェルの新シリーズとのことですが、彼女の作品は最近どれも冴えませんね。 「検屍官シリーズ」だって『業火』をピークにしてその後は尻すぼみ。ただ、15年に渡って続けられているシリーズには重みがあります。たとえば第…

土星の輪(W.G.ゼーバルト)

土星の輪は、土星に近づきすぎて、その潮汐力で破壊されてしまった衛星の破片だそうです。この本に綴られた、一見脈絡のない物語群は、著者に近づきすぎて囚われてしまった歴史のカケラなのでしょうか。 イギリス南東部サフォーク地方を「徒歩で」旅し、過去…

天使の牙から(ジョナサン・キャロル)

「人生で欲しいと思うものには必ず牙があるのよ」。絶頂期にハリウッドを引退した元女優でまだ若いアーレンは、ユーゴ内戦を取材する魅力あふれる戦場カメラマンと出会い、真摯な恋心を抱くようになっていきます。 「死にかけてるのってどんなものかって?も…