りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-01-01から1年間の記事一覧

ナポレオン千一夜物語(藤本ひとみ)

スペイン遠征に向かう直前の1808年、絶頂期にある皇帝ナポレオンが、ポーランド人の愛人マリー・ヴァレフスカに、自らの半世を語ります。寝物語の動機というのが、愛人から褒めてもらって自信を取り戻すため、というのが笑っちゃうのですが、物語はよく…

ネクスト(マイケル・クライトン)

『ジュラシック・パーク』では、血液から恐竜の遺伝子を取り出してみせたクライトンですが、それから17年たった現在では、遺伝子に関する問題は現実のものとなってきています。 本書のメインストーリーは、癌に耐性がある男性の遺伝子特許を、彼が治療を受…

ブルースカイ(桜庭一樹)

3つの時空で展開される、ひとりの少女の物語。彼女の名前は「蒼井そら=ブルースカイ」。西暦1627年、魔女狩りの嵐が吹き荒れるライン川沿いのドイツの町で。西暦2022年、シンガポールで製作されている、3Dワールドの中で。西暦2007年、現代…

風の果て(藤沢周平)

最近、NHKでドラマ化されたそうですね。未読でしたので、手にとってみました。 やはり、東北の日本海側にある海坂藩が舞台なのでしょうか。筆頭家老・桑山又左衛門の許に、果し状が届く場面から物語は始まります。相手は、かつては同じ部屋住みの身であっ…

アレクサンドル2世暗殺(エドワード・ラジンスキー)

小説家的な構想力によって歴史をドキュメンタリー風に展開した小説です。主人公は、1860年代のロシアで、農奴解放をはじめとする改革を断行し、ロシアを近代的な立憲君主国家へと導こうとしながら、ナロードニキによって1881年に暗殺された、アレク…

沈黙のあと(ジョナサン・キャロル)

「ぼくは今、息子の頭に銃を突きつけて殺そうとしている」とはじまる本書は、ステキな出会いがもたらした素晴らしい息子が手のつけられない不良青年に変わってしまった理由については、ほとんど触れてはくれません。 ただ、取り返しのつかない過去と、変えよ…

トリエステの坂道(須賀敦子)

『ミラノ霧の風景』で紹介されていた詩人、ウンベルト・サバをはじめとして、多くの文学者の記憶を秘めた街・トリエステをひとりさまよい歩く表題作にはじまるこのエッセイ集は、亡き夫の家族や親族との出会いや別れを振り返る「ある家族の肖像」となってい…

ミラノ 霧の風景(須賀敦子)

「いまは霧の向こうに行ってしまった友人たちに、この本を捧げる」と後書きにあるように、短かった結婚生活を挟んで、20代から40代までの13年間をすごした、ミラノを中心としたイタリアの知人たちとの思い出を綴った本です。 夫の親しい友人で古典学者…

スターダスト(ニール・ゲイマン)

公開中の映画の原作ですね。ただ、映画化を意識しすぎたのか、あまりにも正統ファンタジーっぽい内容で、『アナンシの血脈』や『グッド・オーメンズ』のような、ニール・ゲイマンらしいヒネリや遊びは、あまり感じられません、 イギリスのどこかにあるウォー…

リビアの小さな赤い実(ヒシャーム・マタール)

リビアの政治体制の下で翻弄される家族の姿を、回想の形で、9歳の少年の視点から描いた本です。外交官であった作者の父親も、リビアの秘密警察に捉えられて消息不明といいますから、自伝的要素の濃い小説なのでしょう。 裕福な父と美しい母に守られていた少…

イスタンブール(オルハン・パムク)

昨年のノーベル文学賞作家による、自伝的小説です。ニューヨークに3年住んだ以外は、ずっとイスタンブールで暮らし続けて、この街の全てを知った上で、この街を愛し続けている著者が、自らの人格形成に大きく影響を与えたイスタンブールの「憂愁」を描きき…

辰巳屋疑獄(松井今朝子)

享保期の江戸を騒がせた「辰巳屋疑獄事件」の顛末記。歌舞伎の演目にもなっているという、有名な事件だそうです。大阪の炭問屋であった辰巳屋の跡目相続をめぐる近親間の対立が、なぜ奉行所を巻き込み、死罪4人を出すほどの大事件となったのかを克明に描い…

クライム・マシン(ジャック・リッチー)

短編のみを350編も書き続けた著者の作品が、17編収められています。2006年の「このミステリーがすごい!」海外編の第1位となった本。どの作品も、気の利いた着想が、スマートな切れ味で仕上げられていて、後味も悪くない、上質のショートショート…

最後の注文(グレアム・スウィフト)

イギリス東部の沼沢地の歴史と、家族の精神の底流の繋がりを描いた『ウォーターランド』に続いて読んだ、2作目のスウィフト作品です。ブッカー賞受賞作。 「おれが死んだら、マーゲイトの海に撒いてくれ」とのジャックの遺言を叶えるために集まったのは、年…

ア・ソング・フォー・ユー(柴田よしき)

新宿二丁目の無認可保育園「にこにこ園」を切り盛りする園長、ハナちゃんこと花咲慎一郎は、その場所柄、風俗産業で働く女性たちの子供たちを世話するので手いっぱい。今日も、ヤク中で未婚の外国人売春婦が、子供を連れて姿をくらましてしまったことを心配…

時の娘(ジョセフィン・テイ)

しろねこさんのブログで紹介されていた本です。本書は1951年の出版というから、50年以上も前に書かれた本ですが、いまだにみずみずしさを失わず、読者を歴史の旅にいざなってくれます。 犯人追跡中にドジをして足の骨を折り、退屈な入院生活を余儀なく…

秀頼、西へ(岡田秀文)

beckさんのブログで紹介されていた本です。戦国時代を題材にした小説は、既に書き尽くされている感がありますが、加藤廣の『本能寺三部作』や本書など、アイデアは尽きないものだとつくづく感心してしまいます。 淀君・秀頼の母子は、大阪城落城とともに絶命…

2007/10 ヒストリー・オブ・ラヴ (ニコール・クラウス)

10月は期せずして、ナチスのよるユダヤ人虐殺に関係した本を多く読むめぐり合わせとなりました。W.G.ゼーバルトの2冊をはじめとして、1位とした『ヒストリー・オブ・ラブ』や2位の『本泥棒』のテーマも、その問題に深く関係しています。誰もが想像…

八日目の蝉(角田光代)

不倫相手の家に忍び込み、生後6ヶ月の赤ん坊を連れ去った希和子。堕した自分の子につけるはずだった「薫」という名前をその子につけて、5年近くも逃亡の日々をおくるのですが、やがて逃げ切れなくなる日が訪れます。 十数年後、19歳になった恵理菜には自…

木星の月(アリス・マンロー)

アリス・マンローさんが70年代から80年代にかけて書いた、比較的初期の作品が収録された短編集です。後の『イラクサ』に見られる、一瞬の出来事が永遠と対峙するかのような鮮烈さには及ばないようですが、この段階で既に「マンローワールド」は出来上が…

漁夫マルコの見た夢(塩野七生)

塩野さんの名前があったので借りてみましたが、よくわからない本でした。おそらく17世紀の、爛熟期のベネチアが舞台の、綺麗な絵本です。ほとんどストーリーはないのですが、内容は結構アダルトですので、どのような人をターゲットにした本なのか、謎です…

魔女の宅急便5(角野栄子)

この映画は中学生の時に見ました。今でも、ジブリの中で一番好きな作品です。ほうきで空を飛ぶなんて、例えばバイクに乗れるようなもの。それしかできない13歳の少女が、黒猫ジジと二人っきりで知らない街に来て落ち込んだり、友人(ジジ)と心が通わなく…

2/3の不在(ニコール・クラウス)

『ヒストリー・オブ・ラヴ』の著者の、デビュー小説です。あちらは、悲しい愛の歴史を記憶に刻み込んだ老人の物語でしたが、こちらは逆に、2/3の記憶を失った男性の物語。人は、愛の記憶なくして、誰かを愛することができるのでしょうか。 英文学の教授で…

ブロークバック・マウンテン(アニー・プルー)

100ページ足らずの薄い文庫本でした。もともと、ワイオミングを舞台にした短編集の一作品だったものが、映画化を機に、これだけで出版されたもののようです。 でも、物語の良し悪しは長さではありませんね。2人のカウボーイ(イニスとジャック)の男同士…

やってられない月曜日(柴田よしき)

「ワーキングガール・ウォーズ」の姉妹編という感じで宣伝されていますが、だいぶテイストは違います。あっちは、会社内の話は「背景部分」で、本題は休暇中の出来事なのに対し、こっちは会社生活そのものが主題。 森絵都さんの『永遠の出口』の感想で「思春…

本泥棒(マークース・ズーサック)

オーストラリアの若い作家によるナチス時代のドイツが舞台の物語。一般のドイツ人にもユダヤ人に対しても中立的な視点であの時代を描くことができたのは、外国人の著者だからなのかもしれません。 「死神」という中立の存在が語るのは、リーゼルという少女の…

海に帰る日(ジョン・バンヴィル)

少年時代をすごした海辺の町へと戻ってきた、老美術史家マックスの周囲には、「死」が満ち溢れているようです。現在には、近い将来訪れるであろう自らの死の予感。近い過去には、長年連れ添った最愛の妻アニタの病死。そして遠い過去にも、この海辺の町であ…

永遠の出口(森絵都)

「小さい頃、私は『永遠』という言葉にめっぽう弱い子供だった」とはじまる本書は、普通の少女である紀子の、10歳から18歳までの成長をたどる物語。 普通の少女ですから、普通のことが起こるのです。同級生とケンカをしたり仲直りをしたり、恐ろしい担任…

シャーロック・ホームズと賢者の石(五十嵐貴久)

世界一有名な探偵シャーロック・ホームズのパロディやパスティーシュは、オリジナルの物語の数よりも、はるかに多いそうです。オマージュ小説の名手である五十嵐さんも、本書の4編のパスティーシュでホームズワールドに参戦してくれました。^^ 「彼が死ん…

ヒストリー・オブ・ラブ(ニコール・クラウス)

荒削りではあっても、心に強く訴えかける小説というものがあります。ブロ友である葉桜さんのレビューで知った本書も、そんな一冊でした。 ナチスから逃れてポーランドを離れ、ニューヨークで錠前屋として細々と生計を立ててきた独り暮らしの80歳の老人、レ…