りぼんの読書ノート

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辰巳屋疑獄(松井今朝子)

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享保期の江戸を騒がせた「辰巳屋疑獄事件」の顛末記。歌舞伎の演目にもなっているという、有名な事件だそうです。大阪の炭問屋であった辰巳屋の跡目相続をめぐる近親間の対立が、なぜ奉行所を巻き込み、死罪4人を出すほどの大事件となったのかを克明に描いていきます。

ただ、全然ドラマチックじゃないんですね。一時代前にやはり大阪で起きた、天下の豪商・淀屋のお取り潰しと較べると、どうも話が地味なのです。(参考『俯き加減の男の肖像(堺屋太一)』)

淀屋は、米の先物取引システムを創設したり、河内地方を干拓したりと、天下の大事業を行ったあげくに、分を過ぎる贅沢豪奢な振る舞いを理由に(実は、大名貸しの借金棒引きのため)潰されたのですが、こちらは、兄弟、叔父甥間のいさかいに、嫁の実家や番頭たちの権力争いがからむ人情話のようで、少々スケールが小さいのです。犯罪と言っても町奉行に袖の下を送ったりするだけで、江戸時代の賄賂なんて普通のことですよね。何が問題なのかピンとこないのです。

でも、それも作者の狙いなのかもしれません。贈収賄容疑で奉行所の役人は死罪、辰巳屋の主人は遠島となる、江戸幕府の潔癖さは意外なものでした。ただしその潔癖さにも限度はあり、少々しっくりこない結末なのですが・・。

2007/11