りぼんの読書ノート

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最後の注文(グレアム・スウィフト)

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イギリス東部の沼沢地の歴史と、家族の精神の底流の繋がりを描いたウォーターランドに続いて読んだ、2作目のスウィフト作品です。ブッカー賞受賞作。

「おれが死んだら、マーゲイトの海に撒いてくれ」とのジャックの遺言を叶えるために集まったのは、年老いた3人の旧い友人たち(保険屋のレイ、八百屋のレイニー、葬儀屋のヴィック)と、ジャックの養子ヴィンス。マーゲイトとはテムズの河口にある、テーマパークを有した海辺の街で、ロンドンからは日帰り旅行の距離。中古車屋を営むヴィンスが用意した中古のベンツに乗りこんで、4人はロンドンを出発するのですが、彼らは、あっちで一杯、こっちで観光と寄り道をしてしまい、なかなかたどり着きません。

実は、4人が4人とも、ジャックには複雑な感情を抱いていたのです。そして、その小旅行に、ジャックの妻をはじめとして、妻たちは誰も参加していないのは何故なのでしょう。弔いのドライブの間中、彼らの会話や独白はジャックとの過去に飛んで行きます。読者の前に徐々に明らかになっていくのは、彼らの経験した挫折、反目、嫉妬、不倫、裏切り・・。

といっても、シリアスな物語ではありません。いや、それが起こった当時は、立場によってはそれぞれシリアスなことに違いないのですが、既にその多くは時の彼方に過ぎ去っていることですし、当時だって皆、うわべは何もなかったように振舞っていたのです。ジャックの死によって実現した小旅行は、はからずも、故人を偲びつつ、無言のうちに、あらためて互いに互いを許しあう機会になったようです。それとも、ジャックはそこまで計画していたのでしょうか?

『ウォーターランド』の奥の深さとはまた異なる、しみじみとした余韻の漂う作品でした。

2007/11