りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

沈黙のあと(ジョナサン・キャロル)

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「ぼくは今、息子の頭に銃を突きつけて殺そうとしている」とはじまる本書は、ステキな出会いがもたらした素晴らしい息子が手のつけられない不良青年に変わってしまった理由については、ほとんど触れてはくれません。

ただ、取り返しのつかない過去と、変えようのない悲劇的な未来をなんとかすることができないのか・・という強い思いが、果たして奇跡を起こすのか、というエンディングに向かって、徐々に水圧が上がっていく感じは迫力があります。

美術館で出会った魅力的な子連れの女性を愛してしまった男は、彼女の物語に大きな嘘を発見してしまうのですが、天使のように素直で可愛い彼女の息子と、魅力的な彼女と3人で暮らすことを選んでしまいます。それは一見すると「愛の力」が成し遂げた奇跡なのですが、やはり過去との対決を回避してしまったということなのでしょう。そのせいか、3人の幸せな生活は、たちどころに崩壊してしまいそうな際どいものに見えてきます。

成長した少年が不良青年になってしまう具体的な理由は触れられていないけど、こんな「幸福の際どさ」こそが崩壊の予兆をなしているのでしょう。緊迫が極限まで高まったラストで、奇跡は起きるのでしょうか。「ダーク・ファンタジー」というジャンル分け以前に、優れた物語性を持った小説です。

2007/11