りぼんの読書ノート

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アレクサンドル2世暗殺(エドワード・ラジンスキー)

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小説家的な構想力によって歴史をドキュメンタリー風に展開した小説です。主人公は、1860年代のロシアで、農奴解放をはじめとする改革を断行し、ロシアを近代的な立憲君主国家へと導こうとしながら、ナロードニキによって1881年に暗殺された、アレクサンドル2世。本書は、自由の導入がどうしてテロを引き起こすことになったのか、解放がなぜ社会の反感をかったのか、の2点を中心に歴史をたどっていきます。

結論的には、その理由は、改革が中途半端に終わってしまったからのようです。その結果、改革を快く思っていなかった保守派からも、改革を一層進めるべきと主張していた急進派からも支持を失い、皇帝は孤立。ついにはテロに倒れるに至るのですが、本書はその過程をドキュメンタリータッチで再現してくれます。まるで「その時歴史は動いた」を見ているよう。^^

このような人物は、ロシア史上、もう一人現れています。改革を進めた結果、ソ連邦を解体に導いてしまったゴルバチョフなのですが、「雪解け」や「グラスノスチ」という言葉も、この時代に初めて使われたといいますし、共通点は多いようです。

本書の後半にドストエフスキーが登場してきますが、彼もテロリストに共感を抱いていたようです。ついに書かれなかった『カラマーゾフの兄弟』の続編で、あのアリョーシャを皇帝暗殺者とする構想もあったというから、驚きです。「テロとの戦い」に勝利するには、テロリストを社会的に孤立させることが絶対条件なのでしょうが、それに失敗した点でも、アレクサンドル2世は現代の先駆けとなってしまったようです。

2007/11