りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

風の果て(藤沢周平)

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最近、NHKでドラマ化されたそうですね。未読でしたので、手にとってみました。

やはり、東北の日本海側にある海坂藩が舞台なのでしょうか。筆頭家老・桑山又左衛門の許に、果し状が届く場面から物語は始まります。相手は、かつては同じ部屋住みの身であった同門の旧友・野瀬市之丞。歳月を重ねる中で、2人の間には、どんなことがあったのでしょう。物語は回想シーンに入っていきます。

道場に同期入門した5人の青年。1人は名門の跡取り息子で、桑山・野瀬を含む他の4人は、貧乏武士の
次男・三男。他家へ養子にでも入ることがなければ、「厄介叔父」として冷や飯食いで生涯をすごさねばならないのが運命。引退した父の跡を次いで、一気に家老にまで上り詰めることになる友人を友として助けながらも、他の4人は複雑な気持ちにならざるを得ません。

又左衛門は藩の農政を預かる代官の家に養子に入り、逼迫する藩財政への打開策として荒地開墾事業で功績をあげて、ついには藩執政の一人である中老職にまで大出世するのですが、彼を敵視して追い落としを図るのは、意外にも、すでに筆頭家老となっていた、かつての親友だったのです。一方で、市之丞はひたすら剣の道を歩み、藩の刺客として用いられたりもするのですが、一家を構えることも養子に入ることもなく、彼の雇い主は不明のまま。

又左衛門が、追い落としの策謀を破って筆頭家老となる過程で、いったいどんなことがあったのか。市之丞は又左衛門のどこが許せなかったのか。展開上、読者の興味も自ずとそこに収斂していくのですが、浮かび上がってくるのは、策謀や収賄や権力の問題ではなく、小藩の厳しい財政事情です。

最下層の貧乏武家に婿入りしながらも、気丈な妻と幸福に暮らしている別の友人が、最終章で旧友にかける言葉が光っていました。実は、そんな人生が一番充実していたのかもしれません・・。

2007/11