りぼんの読書ノート

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とんずら屋 弥生請負帖(田牧大和)

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隅田川の船宿「松波屋」の裏の仕事は、借財がかさんだり、亭主や奉公先の無体に耐えられなくなった人たちを逃がしてあげる「とんずら」でした。仕組みは「仕掛人シリーズ」のようですが、内容は「夜逃げ屋本舗」のようなもの。

松波屋で働く弥吉は、兄貴分の啓治郎とともに、店の看板になっているイケメンの船頭ですが、もちろん裏の仕事に携わっています。しかし弥吉の正体は若い女性の弥生でした。もっとも見つかってはならないのは、実は弥生自身だったのです。

弥生は某藩の藩主のご落胤でした。母親とともに東慶寺に閉じ込められていたのを、12歳の時に松波屋を仕切る叔母のお昌に救い出されて以来、身元を隠して暮らしていたのですが、父親である藩主が叔父との政争に巻き込まれて亡くなってから急に、身辺が慌ただしくなってきました。藩主の座を狙う叔父や、藩の実力者の城代家老は、弥生の存在が邪魔なのか、それとも・・。

どう見ても怪しいのは、京の呉服問屋の若旦那との触れ込みで松波屋に長逗留中の進右衛門ですが、彼の正体は某藩の城代家老の息子、各務丈之進なんですね。しかし彼は、弥生の敵なのか、味方なのか。丈之進の本音は明かされない中で、やがて弥生を狙う罠が動き始めていきます。

緋色からくりシリーズや、三悪人シリーズなどの痛快時代劇を著わしている田村さんの作品は楽しいですね。この作品も、兄貴分の啓治郎と謎めいた丈之進の2人のイケメンに見守られつつも、女だてらに活躍する弥生の「危ういキャラ」が魅力的です。

「とんずら屋」は大きな組織のようです。元締めの市兵衛と情報屋の伝助の思惑や、弥生を江戸に連れてきてから行方不明になったままの幼馴染の仙太郎の動きなど、未解決の問題も多いままですから、続編がありそうですね。

2012/3