りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

本泥棒(マークース・ズーサック)

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オーストラリアの若い作家によるナチス時代のドイツが舞台の物語。一般のドイツ人にもユダヤ人に対しても中立的な視点であの時代を描くことができたのは、外国人の著者だからなのかもしれません。

「死神」という中立の存在が語るのは、リーゼルという少女の物語。字も読めなかったリーゼルは、弟と共に里子に出される途中、列車の中で死んだ弟を埋葬した墓場で、墓堀人が落とした本を盗んでしまいます。弟の埋葬の記憶をとどめるために・・。

養父に文字を習いながら「墓堀人の手引書」を読み通したリーゼルは、次にはナチス焚書で焼け残った本を拾い出し、さらには本好きだった息子を亡くした町長夫人の好意もあって、町長宅から本を盗み出して読みふけります。そして出会った特別の本は、養父ハンスが地下室にかくまったユダヤ人青年のマックスが、リーゼルのために「わが闘争」を塗り潰した上に書いてくれた絵本。

この本のテーマは「言葉」なのです。「言葉の力」で世界を征服しようとした男がドイツを戦争に駆り立てユダヤ人を虐殺していた時に、「言葉の力」で周囲の人々を癒そうとするリーゼルは「言葉を揺する人(word shaker)」としてヒトラーに対峙しているとされるのです。

この本のナレーターである死神は、読者の心の準備を促すかのように、冒頭で物語の展開を話してしまいます。だから次に何が起こるのかというハラハラドキドキはありません。読者は、リーゼルが経験することになる悲劇がページをめくるたびに現実のものになっていくのを、ただただ待つことしかできないのです。そして、彼女がやがて書くことになる一冊の本がたどる運命も・・。パワフルな作品でした。

2007/10(韓国出張中に)