りぼんの読書ノート

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灰色の輝ける贈り物(アリステア・マクラウド)

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短編集冬の犬の作品より以前に書き表された、8編の短編集。寡作でなるマクラウドの小説を全て読んでしまいました。これ以上、彼の作品を読むことができないというのは、寂しいことです。

もちろん本書の8編も全て「珠玉」です。初期の短編を集めた本書では特に、寂れ行く炭鉱と漁業を捨ててケープ・ブレトン島から都会へと出て行く若者たちと島に残る年老いた両親との関係が、色濃く顕れているようです。

姉たちは既に遠くの都会に嫁ぎ、最後に一人残った息子。漁師の父は息子に学問を勧めて島を出るよう勧め、母は反対して引きとめようとします。父の勧めのまま家を出た息子は、それから何十年もたった今でも、その選択が正しかったのかどうか、悩み続けています。<船>

失業中の鉱夫である父を置いて、広い世間を見たいと家を出た息子。彼は、住み慣れた場所のことを見知らぬ人に話す時に、ほろ苦い思いを感じます。自分の全てだったものが、第三者にとってはなんでもないものだと気づかされてしまうから。<広大な闇>

信心深い両親が心配しているだろうと気にしながらも、酒場の灯りに別世界を感じて、迎えに来た弟を追い返し、夜更けまで賭けビリヤードに興じてしまった18歳の少年。彼の思いも、故郷を出て行く後ろめたさに繋がっていくようです。<灰色の輝ける贈り物>

まだ若かった祖父が家族を遺して転落死したほど、不便で険しい岬の家で独り暮らす祖母。青年は両親に頼まれて、祖母に養老院に入るよう勧めにいきます。家族と一緒に暮らすことを望む祖母に対して、青年は、まだ家族の誰にも話していない辛い秘密を隠してはおけませんでした。一番悲しい話でした。<ランキンズ岬への道>

カナダを出てアフリカの仕事に就く前に、海辺で短い休息をとる鉱夫たち。いつ命を失うかもしれない危険な仕事にチームで携わる男たちの誇りと複雑な想いが綴られます。他の作品とは一風変わった趣ですが、ラストにふさわしい力強さにあふれていました。<夏の終わり>

クラウドの小説の素晴らしさは、主題だけではありません。荒れる北海も暗い炭鉱も知らない読者に対しても、その細部まで鮮やかに想像させてくれる際だった描写力も、ふとした視線の動きや何気ない一言に心の動きを雄弁に語らせる手際やタイミングも、全くといっていいほどあざとさを感じさせません。この作者が寡作なのも、当然なのでしょう。

2007/10