りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

吉原手引草(松井今朝子)

イメージ 1

直木賞受賞作というので期待して読みましたが、ちょっとがっかり。「知識とテクニックで書かれた小説」という印象を持ってしまったのです。

構成はよく出来ていると思うんですね。吉原一の花魁と言われた葛城に、いったい何が起こったのか。「数ヶ月前に起きた、誰もが知っている大事件」の真相を調べるために、吉原の関係者から、次々と話を聞きだしていく主人公。読者は、事件の真相どころか、事件の内容すらわからないままに、読み進めることになります。

郭の番頭、遣手、幇間、女衒、贔屓・・総勢17人にも及ぶ話の中から浮かび上がってくるのは、葛城花魁の気性や生い立ち。最後の最後に、事件の内容と真相と、主人公の正体がわかってきます。吉原という雁字搦めの世界で、たった一人で「女の戦い」を仕掛けた葛城花魁の物語は、爽やかといえば爽やかだけど、違和感が残りました。

何よりも、誰もが隠しておきたいはずのあれほどの大事件の真相を、ちょっと聞いて回った者に話してしまうことが不自然。聞いてしまえば、時代劇にはありがちなストーリー。平凡な物語だからこそ、叙述に凝らざるを得なかった・・というのは、うがった見方でしょうか。真相は、闇の中に秘めておいたほうが良かったのかもしれません。

2007/10