りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

冬の犬(アリステア・マクラウド)

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クラウドはいいですね。同じカナダ人作家のアリス・マンローと並んで、「珠玉のような短編」という言葉がぴったりする作家です。イングランドに追われて、スコットランド高地からカナダ東端の厳寒の島ケープ・ブレトンへと移り住んできた者たちと、その子孫たちの暮らしを描いた物語は、人生の美しさと哀しみを格調高く歌い上げてくれます。

まずは、少年の気持ちが描かれます。「やがて去っていってしまうもの」に気づいてしまった11歳の少年の一瞬の心の動きを見事に捉えた『すべてのものに季節がある』と、優秀な血統の乳牛を育てようとする、若い農業研究員に協力しようという熱意が一瞬にして水の泡となってしまう『二度目の春』

そして犬たち。祖先たちがスコットランドから連れてきた、我慢強い大きな犬たちは、いつも移民たちの分身のようなのです。少年の命を救ってくれた、役立たずだった大きな犬に対する罪悪感が、ひしひしと伝わってくる『冬の犬』

『鳥が太陽を運んでくるように』では、子犬の頃から拾って育ててくれた心優しい男を誤って殺してしまった「大きな灰色の犬」の呪縛が今でも一族に伝わっているようすが、少々滑稽に描かれます。アメリカ旅行中も「グレイハウンドバス」には乗らないって言うんですから(笑)。

ケープ・ブレトンで単調な生涯をおくった老人たちへの賛歌は感動的。失われつつあるゲール語の歌と、若くして亡くなった妻の思い出とが重なり合っていく『完璧なる調和』では、ゲール語民謡の最後の歌い手とされる78歳のアーチボルト老人の頑固さが、いい味出してます。

たった一度の交わりの記憶を遺して死んだ恋人の思い出を胸に秘めつつ、孤島の灯台を守り続け、狂女とまで呼ばれるようになったアグネスの過酷な半生を描いた『島』では、最語にちょっとした「奇跡」を見せてくれます。こんな女性も実際にいたのでしょう。

最後に、第二次世界大戦でヨーロッパ出征時の休暇中にスコットランドに立ち寄って、同じゲール語を話す人々と友情を結んだ男の話が登場します。その後、大西洋の両側での男たちの生活も変わっていくのですが・・。

翻訳も素晴らしい、胸に沁み入る一冊です。

2007/9