りぼんの読書ノート

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まぼろしのロンリヴィル(エラン・クロバンド)

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1800年ころの西部、突然のがけ崩れによって出口のない谷間に閉じ込められてしまった、それぞれ4家族のスコットランド人とネイティブ・アメリカン。直前まで争っていましたが、こうなったら当然休戦。4家族の娘と息子たちが結婚し、そのまた子どもたちも結婚して、谷間の村をロンリヴィルと名づけ、平和な共同生活を営んでいました。

ところが200年後のある日、米軍が誤って落とした一発の原爆が一瞬にしてロンリヴィルを消滅させてしまいます。偶然ただひとり生き残ったのは10歳の少年のリトル・フェザー。彼は爆発で開いた穴から新しい世界へと旅立ちます。

少年が学んでいたのは、たまたま村に残されていた旧約聖書となぜかプラトンの国家論。それとインディアンとスコットランド人から受け継いだ、古きよき時代の生活の知恵。新しい世界に戸惑うのかと思ったら、少年は物怖じせずに全てを受け入れます。むしろ周囲を癒す少年の純朴さに、現代の大人たちが魅了されていくのです。はじめは、少年がたどり着いた小さな町の保安官が。次いで飲んだくれの牧師が。さらには、町に里帰りしていたハリウッド女優や、消えた原爆を捜査に来ていた陸軍大将までもが・・。

やがて少年は「神に使わされた者」ではないかとの噂も出はじめ、選挙に苦戦中の州知事や合衆国大統領までもが、少年を追い始めます。一方で、少年を「悪魔の手先」と呼ぶ人々も現れて、大騒動になっていくのですが・・。

寓話的な物語です。ストーリー的には、だんだん騒動が大きくなっていく荒唐無稽さと、少年がたどり着く先が興味を繋ぐのですが、こういう本を読んで感じるのは、いかにアメリカという国が宗教的で現代のアメリカ以外の国を知らないかということ。彼らにとって200年前の自分の国が、すでに理解不能なものになっているのですから。

作者はそのあたりを皮肉っていると思うのですが、宣伝コピーにあるように「小さな少年に、アメリカがほほ笑み、泣いた」などと言われると逆に心配になってしまいます。

2009/4