ペルシアのギリシア侵攻を３度にわたって食い止めたペルシア戦争と、アテネとスパルタが３０年に渡って覇権を争ったペロポネソス戦争、ペルシアの支援を受けたテーベとアテネが唯一の超大国となったスパルタをその座から引き摺り下ろしたコリント戦争を長い序章として、ギリシアの覇権を争う三国が並び立った時代が、著者の言う「三国志の時代」です。
そういえば古代ギリシア史を学んだときでも、ペロポネソス戦争の後、ギリシア各国の力は衰えて、一時的にテーベが覇権を得た時期もあったものの、すぐにアレクサンドロス大王のマケドニアに統一されてしまったような記憶しかありませんでした。でも、こうやって小説になったものを読んでみると、この２０年ほどの時代がめちゃくちゃ面白いのです。もちろん小説にするくらいですから、個人の活躍が描かれます。
主役はテーベのエバミノンダス。三国志でいったら諸葛孔明か。自国に攻め入ろうとする最強国スパルタの重装歩兵軍団の精鋭部隊を新戦術を駆使して葬り去った「レウクトラの戦い」は、「赤壁」といったところでしょうか。その後、スパルタ周辺諸国に独立の手を差し伸べて連合軍の盟主となり、スパルタ本国に４度に渡って攻め入った執念は「五丈原」を彷彿とさせます。
悪役・曹操の役どころは、ペロポネソス戦争に勝利したスパルタの老王アゲシオラス。ただし魏の覇権は揺るがなかった中国の三国志とは異なり、レウクトラ以降国力の衰えたスパルタは、エバミノンダス率いるテーベ連合軍にたじたじとなって、滅亡の寸前までいってしまうのです。祖国防衛戦となったマンティネイアの戦いで、戦闘には敗れながら、勝ちを急いだエバミノンダスを討ち取ったあたり、彼もまた執念の人でした。
ペロポネソス戦争の敗戦から立ち直ったばかりのアテネは、イフィクラテスらの新世代が登場するものの影が薄い。初めはテーベとともにスパルタに立ち向かうものの、テーベが覇権を握りそうになると、一転してかつての仇敵スパルタを支援。かつてのデロス同盟の盟主の栄光は、二度と復活することはなかったのです。それにしても、ペロポネソス戦争以来１００年もの間、内乱が断続的に続いたのですから、ギリシア諸国の国力が低下したのも当然ですね。
この時代のことを「おもしろい」と書きましたが、物語としてみると、マラソンの会戦、映画「３００」にもなったテルモピレーの激戦、サラミスの海戦に彩られたペルシア戦争や、ペリクレス、アルキビデアス、アルキダモス、リュサンドロスらが縦横無尽の活躍を見せたペロポネソス戦争のほうが「おもしろい」ですね。やっぱり。＾＾；
2009/4
【年表】をつけておきましょう
ペルシア戦争
紀元前492年：ペルシア・ダレイオス1世の第一次ギリシア侵攻。暴風雨で撤退
紀元前490年：ペルシア・ダレイオス1世の第二次ギリシア侵攻。マラトン会戦に破れ撤退
紀元前481年：ペルシア・クセルクセス1世の第三次ギリシア侵攻
テルモピレーでレオニダス王率いるスパルタ軍が奮戦の末に全滅
ペルシア軍のアテネ占領。サラミスの海戦でペルシア海軍全滅
紀元前448年：カリアスの和睦
ペルシア戦争
紀元前492年：ペルシア・ダレイオス1世の第一次ギリシア侵攻。暴風雨で撤退
紀元前490年：ペルシア・ダレイオス1世の第二次ギリシア侵攻。マラトン会戦に破れ撤退
紀元前481年：ペルシア・クセルクセス1世の第三次ギリシア侵攻
テルモピレーでレオニダス王率いるスパルタ軍が奮戦の末に全滅
ペルシア軍のアテネ占領。サラミスの海戦でペルシア海軍全滅
紀元前448年：カリアスの和睦
ペロポネソス戦争
紀元前431年：スパルタ王アルキダモス2世率いるペロポネソス同盟軍の第一次アッティカ侵攻
紀元前430年：第二次アッティカ侵攻。アテネ「デロス同盟」立役者ペリクレス病死
紀元前428年：第三次アッティカ侵攻
紀元前425年：スピュロスの戦いおよびスファクテリアの戦い。アテネ軍の勝利。
紀元前424年：ペロポネソス戦争最大の会戦デリオンの戦い。スパルタ軍の勝利。
紀元前422年：アンフィポリスの戦い。スパルタ軍の勝利。両軍の指揮官クレオン、ブラシダスともに戦死。
紀元前421年：アテネとスパルタによる50年間を期限とした同盟条約の締結（ニキアスの和平）。
紀元前415年：アテネ、スパルタがシチリアへ遠征軍を派遣。両者が再び衝突（ニキアス和平の終焉）
紀元前413年：第四次アッティカ侵攻。
紀元前413年：アテネのシチリア派遣軍が全滅。アテネ衰退の始まり
紀元前413年：ペルシアとスパルタの同盟の締結。
紀元前411年：キュノッセマの海戦。アテネ海軍の勝利。
紀元前410年：キュジコスの海戦。アテネ海軍の勝利。スパルタ艦隊が壊滅状態に。
紀元前407年：ペルシアの資金援助によるスパルタ艦隊の再建
紀元前405年：アイゴスポタモイの海戦。スパルタ海軍の勝利。アテネ艦隊壊滅。
紀元前405年：スパルタ・リュクルゴス将軍によるアテネ市の包囲。
紀元前404年：アテネ全面降伏。ペロポネソス戦争の終結
紀元前431年：スパルタ王アルキダモス2世率いるペロポネソス同盟軍の第一次アッティカ侵攻
紀元前430年：第二次アッティカ侵攻。アテネ「デロス同盟」立役者ペリクレス病死
紀元前428年：第三次アッティカ侵攻
紀元前425年：スピュロスの戦いおよびスファクテリアの戦い。アテネ軍の勝利。
紀元前424年：ペロポネソス戦争最大の会戦デリオンの戦い。スパルタ軍の勝利。
紀元前422年：アンフィポリスの戦い。スパルタ軍の勝利。両軍の指揮官クレオン、ブラシダスともに戦死。
紀元前421年：アテネとスパルタによる50年間を期限とした同盟条約の締結（ニキアスの和平）。
紀元前415年：アテネ、スパルタがシチリアへ遠征軍を派遣。両者が再び衝突（ニキアス和平の終焉）
紀元前413年：第四次アッティカ侵攻。
紀元前413年：アテネのシチリア派遣軍が全滅。アテネ衰退の始まり
紀元前413年：ペルシアとスパルタの同盟の締結。
紀元前411年：キュノッセマの海戦。アテネ海軍の勝利。
紀元前410年：キュジコスの海戦。アテネ海軍の勝利。スパルタ艦隊が壊滅状態に。
紀元前407年：ペルシアの資金援助によるスパルタ艦隊の再建
紀元前405年：アイゴスポタモイの海戦。スパルタ海軍の勝利。アテネ艦隊壊滅。
紀元前405年：スパルタ・リュクルゴス将軍によるアテネ市の包囲。
紀元前404年：アテネ全面降伏。ペロポネソス戦争の終結
コリント戦争～三国志時代
紀元前395年：コリント戦争勃発。覇権国スパルタにギリシャ諸国が対アテネ連合軍
紀元前394年：コロネアの戦い。アゲシラオス王率いるスパルタ軍が、アテネ連合軍を破るクニドスの海戦。アテネ・ペルシア連合艦隊がスパルタ海軍を破る。
紀元前371年：レウクトラの戦いでエバミノンダス率いるテーベ軍がスパルタ軍に大勝利。テーベの覇権確立
紀元前362年：スパルタ本国攻防戦マンティネアの戦いでエバミノンダス戦死。テーベの衰退開始
紀元前395年：コリント戦争勃発。覇権国スパルタにギリシャ諸国が対アテネ連合軍
紀元前394年：コロネアの戦い。アゲシラオス王率いるスパルタ軍が、アテネ連合軍を破るクニドスの海戦。アテネ・ペルシア連合艦隊がスパルタ海軍を破る。
紀元前371年：レウクトラの戦いでエバミノンダス率いるテーベ軍がスパルタ軍に大勝利。テーベの覇権確立
紀元前362年：スパルタ本国攻防戦マンティネアの戦いでエバミノンダス戦死。テーベの衰退開始
