「第1次ポエニ戦争」後にシチリアを領有したローマと、イベリア半島の植民地化を進めたカルタゴが、地中海世界の覇者の座をめぐって再衝突。カルタゴの将軍ハンニバルは、5万の兵と37頭の戦象を率い、アルプスを越えてイタリアに侵攻。彼の天才性は、トレビア、トラシメヌス湖畔、カンナエと続いた主力軍の会戦で、いかんなく発揮されます。ローマ軍は、地形や伏兵や騎兵の速度をもって包囲され、殲滅されるという大敗を喫するのです。
ローマは不戦焦土戦術によって一息ついたものの、18年に渡ってイタリアの一角を占領したハンニバルに脅かされ続けます。そんな中で、イベリア半島に遠征していたスキピオの父親も戦死。若くして軍を率いることになったスキピオが行ったことは、徹底的な模倣でした。イベリア半島でカルタゴ軍を破ったスキピオは、元老院の反対を押し切ってシチリアからカルタゴ本国に侵攻。急遽呼び戻されたハンニバルと、ザマで対峙するに至ります。
本書のテーマは、凡人スキピオが、いかにして天才ハンニバルに勝利し得たかということなのでしょう。徹底的な調査と調略によって、コツコツと優位性を積み重ねていったスキピオでしたが、それだけでは不十分。やはり総合的な人間力が必要とされたのです。合理的な停戦交渉をぶち壊すほどの怒りを見せたスキピオと、最後の最後に人間性を見せたハンニバル・・という解釈なのですが・・。
英雄となったスキピオも、戦後には凡庸な元老院によって弾劾され、ハンニバルと同時期にひっそりと死を迎えることになります。本書はそこで終わるのですが、スキピオの孫が護民官として有名なグラックス兄弟となって、ポエニ戦争がもたらした社会の歪みと戦うことを思うと、歴史の面白さを感じます。
2016/6