りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ジブラルタルの女王(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

イメージ 1

斜陽の17世紀スペインに生きた剣士『アラトリステ』の華々しくも物悲しい活劇譚シリーズの著者による、女性が主人公のクライムストーリー。

南スペインで「女王」の異名を取る謎めいた女性の半生をたどる作家は、まだ30代半ばにして大富豪となった彼女の過去が麻薬犯罪の世界でのしあがってきたものであることを、冒頭から明らかにしてしまいます。

でも、それは最初から明示されているテーマ。メキシコの貧民街に生まれ育った平凡な女性が、わずか12年の間でいかにして「女王」の座につくことができたのか、その苦難の道のりで彼女がどう変わったのかを見据えることが、本当のテーマなのでしょう。それは同時に、彼女の変わらなかった部分を浮かび上がらせてくれます。そして、彼女がどのようにして自分の人生に決着をつけようとするのかは、最後の山場として、エンディングのお楽しみ。

まだ20歳を超えたばかりのテレサの恋人は、麻薬を運ぶ飛行機乗り。彼が組織を裏切って殺され、彼女のもとにまで暗殺者が! 間一髪、虎口を脱してスペインに逃れたテレサは、麻薬を運ぶ船乗りと知り合い、2人して「事業」を伸ばしますが、密告によって追われる中、彼は事故死。テレサも監獄に収容されてしまいます。でも、テレサがタフなのは、ここからなんですね。12年後、裏社会で大立者となったテレサは、かつての恋人を奪い去った真犯人と決着をつけるべく、故郷メキシコに戻るのですが・・。

うっかりすると「ハーレクイン」的になってしまうジェットコースターストーリーを、ここまで読ませる作品に仕上げたのは、『アラトリステ』を単なる冒険活劇譚には終わらせていないのと同様、著者の力量ですね。

2007/9