りぼんの読書ノート

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アラトリステ3 ブレダの太陽(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

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マドリッドが舞台の1・2巻では、宮廷や異端審問官の謀略を相手に個人の名誉をかけて闘ったアラトリステですが、3巻の舞台は戦場です。オランダ独立戦争の12年間に及んだ休戦期間が終わり、フランドルで死闘を繰り広げるスペイン軍の一員として戦場に戻ったアラトリステ。物語の語り手となる従者イニゴも、14歳になってはじめての従軍。

イニゴが見た戦争の現実は、剥き出しの暴力が支配する世界。故郷から遠く離れているスペインの兵士には逃亡も降参も許されず、乏しい糧食や弾薬、さらには給料の未払いにまで悩まされながらも、戦闘機械となって殺戮を繰り返すしか、生き延びる道はありません。このあたり、戦闘シーンの描写は圧巻です。

絶望的な状況の中で英雄的に戦う主人公やスペイン兵士を讃えながらも、作者の筆は、近い将来に訪れるスペインの没落の原因にも及びます。「スペイン人が、宗教や名誉や名声のために、無計画に闘っていた時に、オランダやイギリスは、自国の発展という大目的に合致する戦闘のみを、戦略的に行っていたのだ」と。この差は大きいな。

レダとは、オランダ独立戦争の最激戦地となった要塞都市のことで、ベラスケスが「ブレダの開城」という絵画を遺しています。勝者であったスペイン司令官が、敗者となったオランダ司令官に対して示す寛大さを、スペイン騎士道の真の勝利として描いた名画だそうです。

10年後のベラスケスに、当時の模様を伝えることになったイニゴが述懐します。「ブレダは、こういうものとして記憶されていくしかないのだろう」と。真の勝利者は、アラトリステら無名のスペイン兵士たちだったのですが。4巻以降も、楽しみです。

2007/2