フランドルを転戦し、スペインに帰国直後のカディスでも陰謀に巻き込まれてしまったカピタン・アラトリステと若き従者イニゴは、久々に首都マドリッドに戻るのですが、ここでも恐るべき陰謀に巻き込まれて、絶体絶命の危機に陥ってしまいます。
そもそものきっかけは愛情関係のもつれという、たわいもないこと。でも、相手が最悪。アラトリステと関係を持っていた美人女優のマリアが、国王フェリペ四世の目にとまってしまったんですね。実在の詩人である親友ケベードらの忠告を無視して、国王と美女を張り合うなんて無茶をするものだから、国王暗殺という陰謀に巻き込まれてしまいます。フェリペ四世に刺客の手が迫る中、敵に雇われた宿敵マラテスタに捕らえられてしまい、痴情のもつれから国王を暗殺した犯人との汚名を着せられそうになるアラトリステ。
そんな時イニゴは、彼にとっての運命の美少女であり、稀代の悪女であるアンヘリカに「愛している」なんて言われて一夜をともにし、骨抜きにされちゃってます。アラトリステとイニゴは、どうやって危機を脱出できるのでしょうか・・。
前4巻と同様、黄昏を迎えつつあるスペイン帝国の様子が生き生きと描かれています。武人の誇りとか、男たちの友情とか、貴婦人への愛とか、そんなことに美学を感じてうつつを抜かしている郷士たちが発揮する凄まじいまでのパワーが、スペインを世界帝国に押し上げた一方で、国民から遊離した宮廷貴族や、異端追放に血道をあげる教会が、この国の活力を奪っていくのです。
スペインも巻き込まれる30年戦争は、もう大陸ではじまっています。スペインの没落が決定的になる1648年のウェストファリア条約まで、あと20年。やがてイニゴはスペイン軍の上級士官として、スペイン軍の敗北と没落を見届ける役割を果たすことになるようですが、このシリーズ、続きも刊行されるのかどうか・・。
2007/12