りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

均ちゃんの失踪(中島京子)

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読み始めてから、この本のタイトルが「坊ちゃんの失踪」ではないことに気づきました(笑)。『FUTON』に『イトウの恋』と、過去の名作から発想を得た作品のある著者の本ですので、勝手に漱石へのオマージュかと思ってしまったようです。^^;

「均ちゃん」は、中年の冴えないイラストレーターで、女性にだらしなく、失踪癖もある、でもどこか憎むめない、飄々としたキャラの男性です。「坊ちゃん」とは、だいぶ違いますね。

例によって失踪した均ちゃんですが、今回はちょっと違っていました。留守の間に空き巣に入られてしまって、犯人逮捕の証拠を得るために関係者が警察に集められたところ、元妻と2人の愛人が一堂に会するという事態が起こってしまったのです。

元妻は年上で40代の美術教師。2人の愛人は30代の重役秘書と20代の編集者。それぞれ初対面ですが、元妻の景子は慣れたもの。秘書の空穂は不倫中で、均ちゃんは2番目の男なので半分どうでもいい。編集者の薫だけは真剣だったので、元妻や自分以外の恋人がいたことに大ショック。

でも均ちゃんの失踪中に、この3人が仲良くなっちゃうんですね。「私は均ちゃんの何?」という疑問が、「均ちゃんは私の何?」という疑問に置き換わっていくあたりはドラスティック。すると何が起きるのか。女性たちは皆、均ちゃんの不在によって、たくましくなるのです。そして、それぞれが、新しい道を見つけちゃうのです。

均ちゃんには均ちゃんなりに、失踪した理由もあったのですが、彼が普段の生活に戻ろうとした時には、失踪した側と、残された側とがしっかり逆転しちゃってるんですね。やっぱり女性はたくましい! そういえば『FUTON』でも、ウダウダする男を残して旅立っていくのは女性のほうでした。^^

2007/10