りぼんの読書ノート

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血と暴力の国(コーマック・マッカーシー)

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90年代に著された記念碑的な国境三部作(『すべての美しい馬』、『越境』、『平原の町』)以来となるマッカーシーさんの新著は、なんと1980年のアメリカが舞台のクライム・ノヴェルでした。

ヴェトナム帰還兵のモスが荒野で発見した自動車には、死体とともに大量の麻薬と莫大な現金が残されていました。現金を持ち逃げしたモスを追って、危険な殺人者が動き始めます。「旧き良き時代」を述懐しながら殺人者を追う老保安官ベルの前で、関係者を全て巻き込む情な殺戮が繰り返されていくのですが、それはまるで「悪意を持った運命」としか言いようがありません。

もちろん読者は、この本が単なる犯罪小説ではないことに、すぐに気づかされます。武器を常に携えて、フロンティアを開拓してきたアメリカという国が行き着く先は、いったい何なのか。そしてフロンティアが消滅した後に残った「国境」とは、この国にとってどんな意味を持っているのか。そう考えていくと、この本は確かに、20世紀半ばの「国境の先」をまだ幽玄な存在として描いた『国境三部作』の延長線上にあるようです。

シュガーという名前だけ明らかにされている「純粋悪」のような殺人者もまた、「国境の外」からやってきた存在とされています。しかし、「国境」を作って「内と外」とを隔てた者も、自分自身であることを銘記すべきなのでしょう。

著者の最新作は、近未来の荒廃したアメリカが舞台だそうです。既にピューリッツァー賞を受賞し、ノーベル賞候補とも言われる著者の絶望は、行き着くところまで行ってしまったのでしょうか。

2007/10