りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

戦争の法(佐藤亜紀)

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佐藤さんが日本を舞台にして書いた、唯一の小説です。1975年に突如として日本から独立を宣言し、街にはソ連兵が駐留するようになった日本海に面したN県で、ゲリラ兵となった中学生の物語。

街はいきなり崩壊するのです。普段の生活では、普通の市民たち(これだって怪しい概念ですが)から爪弾きされていたような者や、強者にへつらう風見鶏のような者たちが、権力を握って市政を牛耳りはじめます。

家庭もいきなり崩壊します。零細紡績工場だった主人公の家では、母はソ連兵相手の売春宿を開き、父は家を出て国境(県境)付近で怪しい商売をする闇屋となってしまう。主人公は、友人の千秋とともに家を出て、ゲリラの一員となります。

存在しなかったはずの「独立派」によって独立させられてしまったという虚構の政権に対するのは、戦闘行為などしたくもなかった虚構のゲリラ部隊。両者の戦いは、やはり虚構なのか、それともリアルなのか。否応なく戦闘に巻き込まれてしまった者にとっては、そんなの関係ない?

「混乱期の非正規軍少年兵」というテーマは、最新作『ミノタウロス』と共通していますが、本書の主人公たちは、赤色革命直後のウクライナで、人間以外のものに成り果ててしまった少年たちよりは、まだマトモです。主人公は、独立騒動が収束したあとで、現実世界に戻れたのですから。友人の千秋は、虚構の中に飲み込まれてしまって帰還を果たせなかったのですが・・。

数日前の新聞で、第二次世界大戦のエピソードが紹介されていました。前線は崩壊し散り散りに後方へと逃げ戻るドイツ戦車部隊を纏めて、押し寄せるソ連軍の前に防衛戦を挑ませたのは、「燃料あります」という偽の看板だったそうです。看板に釣られて補給に立ち寄った戦車を、一台ずつ捕まえて並ばせ、即席の防衛ラインを作っちゃったんですね(笑)。

佐藤さんの好きそうなエピソード・・と思ってよくよく読んでみたら、佐藤さん本人が書いていたのでした。^^

2007/10