りぼんの読書ノート

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シャンタラム(グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ)

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「奇跡の小説」です。武装強盗の罪で20年の懲役刑に服していたオーストラリア人のヘロイン中毒者が、白昼堂々と脱獄してインドへと逃走。ボンベイのスラムに潜伏してスラム住民のため無資格診療所を開設した後にボンベイ・マフィアの一員となり、さらにソ連占領下のアフガニスタンでゲリラ活動にも従軍するという波乱万丈の物語は、そのまま著者の経歴と重なります。

「自伝的小説」であるため、圧倒的な臨場感に満ちています。無国籍都市ボンベイに世界各国から集まる、さまざまなボヘミアンたちとの出会い。スラムは単なる貧民窟ではなく、秩序や掟に従って人々が共生する独立世界であること。奴隷市場や臓器銀行の存在。スラムを襲ったコレラ禍との絶望的な闘い。
ボンベイの刑務所での苛烈な拷問、同房者との対決、さらにはシラミや線虫との闘い。マフィアによる不正両替やパスポート偽造の手口。そして、アフガン・ゲリラであるムジャヒディン闘士たちとの生活・・。

本書が「奇跡の小説」であるのは、細部まで丁寧に描かれたストーリーやエピソードによるだけではありません。本書は同時に「愛の物語」であり、「喪失と再生の物語」でもあるのです。

ボンベイに着いた主人公リンジーは、スラムに住むガイドのプラバカルと知り合って長く続く友情を育みますし、マフィアの頭目アブデル・カーデル・ハーンを父親のように慕い続けます。そしてボヘミアンの謎の女性カーラに対して揺るがぬ愛情を捧げるのです。そのどれもが、彼のそれまでの人生では求めても得られなかったものでした。

何度もどん底に堕ちたリンジーは、スラムで無料の医療活動を行って「シャンタラム」とと呼ばれるに至ります。「神の平和の人」との意味なのですが、この後も彼の転落人生は続きますので、こんな呼び名は時期尚早だったかも・・。^^

本書はアフガニスタンの死地を脱したリンジーが、マフィア内部の陰謀の真相に気づき、組織同士の最終抗争を生き延びて、カーラが隠し続けていた秘密を明かされる場面で終わりますが、三部作構想で続編が書かれつつあるとのこと。ただ「奇跡の小説」となった本書の水準を越えるかどうかは疑問です。

著者は、後に再逮捕されてオーストラリアの刑務所で残された刑期を務め上げていた間に、何度も看守に邪魔されながらも本書の執筆をしていたそうです。その意味でも「奇跡の小説」です。

2012/2

P.S.
インドには「あなたに10人の娘が生まれ、皆、良縁に恵まれますように」という呪いの言葉があるそうです。娘を嫁がせるための莫大な持参金で破産することを願う意味だとのこと。これって・・。^^;