現代における物語の可能性や、コミットメントとデタッチメント、さらには結婚観や阪神大震災やオウム事件といった問題まで,対談時から10年以上たっても日本人が直面しているテーマが、主に村上さんの問いに河合さんが答える形で語られます。
さすがにプロ同士の対談で、語られる内容は深い。「人々は根本ではもっと稚拙な物語を求めていたのかもしれない」とか、「対応性の遅さと情報量の少なさ」や「個人的営為」を保っている限り「小説は残るであろう」などという発言も興味ありますが、この対談が『ねじまき鳥クロニクル』が書き上げられた直後とのこともあって、その本に関する話に興味深いものが多かったですね。
「苦しむために『井戸掘り』をするのが結婚であり、大変なことだから別にしなくてもいいのじゃないか」とか、「『壁抜け』には力が必要」と語っているのは、主人公が井戸の底に入っていく場面のことですね。それは「黄泉の国に入っていく感覚に似て、清めの意味がある」とのこと。一方で、『クロニクル』は「ものすごいコミットメントの本だ」と、河合さんは語っています。やはり再読しなきゃならないかな。
河合隼雄さんは、今年7月に亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします。
2007/9