りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2007-01-01から1年間の記事一覧

ミノタウロス(佐藤亜紀)

人間を、人間としているものは、いったい何なのか。20世紀初頭のウクライナを襲ったロシア革命前後の混乱と戦乱の中で、人間以外のものに成り果ててしまった少年たちの物語。 一夜にして地主に成り上がった男の息子として生まれたヴァシリは、農奴身分から…

聖灰の暗号(帚木蓬生)

12~13世紀、ローマ教会によって異端とされ弾圧されたカタリ派のことは、ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』で、初めて知りました。教義の違いはともかくとして、同じキリスト教徒に対して「十字軍」を送り込み、一般信徒の大虐殺を行ったという歴史的…

世界の歴史10「新たなる世界秩序を求めて」(J.M.ロバーツ)

昨年12月から、月1冊のペースで読み続けてきた10巻シリーズが完結! 「現代への影響の大きさ」を重視して歴史を記述したこのシリーズ、読んだ価値がありました。たとえば、「ビザンチン帝国が現代に伝えた最大の影響はスラブ民族に正教を伝えたことにあ…

星の巡礼(パウロ・コエーリョ)

スピリチュアルな本を読んでしまいました(笑)。 ブラジルのベストセラー作家である著者が、ピレネーから大西洋に向かい、聖人ヤコブを祭るサンチャゴ・デ・コンポステーラ大聖堂へと導く巡礼道を歩みながら、「真のマスター」へと至る道を発見するまでの物…

天使は容赦なく殺す(グレッグ・ルッカ)

偶然手に取った『わが手に雨を』が、バンドを外されアルコールに溺れる女性ミュージシャンが、家族の過去ときっちり向き合って再生するという内容の、思いのほか読み応えのある小説だったので、驚いたことがあります。 本書も女性を主人公にしたハードボイル…

イトウの恋(中島京子)

『FUTON (中島京子)』の著者による、直木賞受賞作です。あちらは花袋でしたが、こちらは、ヴィクトリア朝イギリスの女性旅行家イザベル・バードの『日本奥地紀行』に想を得て書かれたラブストーリー。 明治初期に訪日したイザベルが、東北・北海道の…

凶犯(張平)

『十面埋伏』 では、中国の地方都市を舞台にした司法官僚の犯罪をリアルに描き出してくれた作者ですが、その数年前に書かれた本書は、山村部の社会問題を取り上げています。 ここで「凶犯」と言われているのは、中越戦争で片足を失って傷痍軍人となり、国有…

2007/8 スコーレNo.4(宮下奈都)

毎年8月は、読書量が落ちるのです。夏休みで通勤日数が少ない上に、熱帯夜で寝不足気味になるせいもあって、通勤電車内での読書が進まないのです。今年は旅行もしましたしね。1人で出かける出張とは異なり、ずっと2人ですごす旅行の間にはそれほど本も読…

ちんぷんかん(畠中恵)

「しゃばけシリーズ」の第6作になります。「いつも病弱でこまめに死にかけている」若旦那・一太郎と、若旦那を囲む妖(あやし)たちの物語・・との枠組みは変わっていないのですが、「大江戸妖怪ミステリー」の印象は薄くなりました。その分、若旦那の周囲…

最後のウィネベーゴ(コニー・ウィリス)

傑作タイムマシン小説『犬は勘定に入れません』の著者による中編作品集。 表題作は、犬が絶滅してしまった近未来のアメリカで、15年前に亡くした愛犬の姿をはからずも見出すことになった、孤独な男の物語。やはり各州で禁止され、絶滅しつつあるキャンピン…

幻のマドリード通信(逢坂剛)

『カディスの赤い星』で直木賞を受賞する直前の、20年前の短編集。4作品ともスペイン内戦に関連したテーマであって、著者の原点ですね。 スペイン内戦終結後、再開された日本帝国公使館で発見された焼死体の謎を描いた表題作は、反ファシズム民主政府内で…

堕ちた天使アザゼル(ボリス・アクーニン)

日本語の「悪人」からペンネームを取ったロシア人作家アクーニンによる、ファンドーリン・シリーズの第一作です。このシリーズ、今年になってから2冊翻訳されて人気も上々のようですが、5年前に本書が出版された当時はあまり話題にならなかったようです。 …

バーチウッド(ジョン・バンヴィル)

カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』を押さえてブッカー賞を受賞した作品が、佐藤亜紀さんの翻訳で出版されました。これはもう、読むしかありません。 3部からなっています。第1部は、かつては優雅な屋敷だったバーチウッドに戻ってきたガブリエ…

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ(本谷有希子)

佐藤江梨子さん主演で、映画が公開されています。もともとこの作品は戯曲として書かれたものだそうですから、閉鎖された空間の中でテンションをあげまくるキャラクターとテンポのよい展開は、小劇場にこそふさわしいのでしょう。 「あたしは絶対、人と違う。…

カラヴァッジョ(ペーター・デンプ)

バチカンで、「聖ペテロの磔刑」や「十字架降下」を見たことがあります。画面内の明暗の差が激しく、宗教画としては極めてドラマチックな作風のカラバッジョの絵画は、16世紀末までのルネサンス美術を葬り去って、17世紀バロックの幕を開けることになり…

シッピングニュース(E・アニー・プルー)

最後の一行がいいですね。「愛が苦痛や悲嘆を伴わずに生まれることも、時にはありえるのだ」。ラッセ・ハルストレム監督がケビン・スペイシー主演で映画化した作品ですが、内容はいたって地味。 主人公の30代後半の男性・クオイルが、「どんだけ~」と叫び…

しずく(西加奈子)

あちこちのブログで人気の高い、西さんの本をはじめて読んでみました。6編の「女どうし」の関係を綴る短編集。 組み合わせは色々です。 ・長い間をおいて偶然再会した、幼なじみの2人 ・結婚を望む30過ぎの女性と、恋人の連れ子 ・夫に先立たれた老未亡…

【再読】天使 & 雲雀(佐藤亜紀)

旅行の最後に、佐藤亜紀さんの『天使』と『雲雀』を読み返してみました。さすがにはじめに読んだときほどの興奮を感じることはなかったものの、その分、彼女のキリッと締まった文体の素晴らしさと、展開の巧みさを、じっくり味わうことができたようです。 ま…

博士と狂人(サイモン・ウィンチェスター)

副題に「世界最高の辞書OEDの誕生秘話」とあるように、41万語以上の収録語数を誇る世界最大・最高の辞書『オックスフォード英語大辞典』が19世紀末に作り出されるまでのノンフィクションです。 あらためて気付かされるのは、普段、当たり前に使ってい…

ワイオミングの惨劇(トレヴェニアン)

『アイガー・サンクション』や『シブミ』といったスパイアクションで一世を風靡したトレヴァニアンが、(おそらく)老齢をおして書き上げた「西部劇」です。 でもこれは「西部劇」なのでしょうか。確かに構成はまさしく「西部劇」なのです。西部の街に突然現…

カジノを罠にかけろ(ジェイムズ・スウェイン)

映画では「オーシャンズ」シリーズが華々しくカジノ荒らしを仕掛けていますが、この本はカジノ側に立って「イカサマ・ハンター」として雇われる男の物語。長年勤めたラスベガス署の刑事を定年退職し、今はカジノのコンサルタントとしてマイアミで優雅な老後…

旅のラゴス(筒井康隆)

この物語のおもしろい所は、時間の長さかもしれません。主人公のラゴスは、それこそ生涯をかけて旅をするのです。故郷を出たときに彼に思いを寄せていた少女は、彼が戻ってきた時には兄嫁となっていて、すでに60歳を超えてしまっているのですから。 そこか…

スコーレNo.4(宮下奈都)

主人公・麻子の人生の中の4つの時間を「スコーレ(人生の学校)」として切り取った本書は、少女から大人の女性へと変わっていく麻子の成長過程をとってもみずみずしく描いた、素晴らしい小説でした。 華やかな名前と容姿を持つ妹・七葉を愛しく思いながら、…

世界の歴史9「第二次世界大戦と戦後の世界」(J.M.ロバーツ)

昨年12月からゆっくりと読み始めた「世界の歴史」も現代に近づきました。第9巻では、1939年に勃発した第二次世界大戦によって引き起こされた人類史上未曾有の混乱と危機と、それがもたらした戦後の世界構造を描きます。 第2次世界大戦については、こ…

モンティニーの狼男爵(佐藤亜紀)

フランス革命前夜・・といっても、パリでも、ベルサイユでもなく、革命からも遠く離れた、モンティニーなる片田舎が舞台。田舎者の青年男爵が、持参金がたっぷりついた修道院育ちの娘と結婚します。もちろん、典型的な政略結婚。ところが男爵は、妻となった…

2007/7 FUTON(中島京子)

今月は候補がいっぱい。 プリーストの『奇術師』とサラの『夜愁』の一騎打ちかと思ってましたが、同じプリーストの『魔法』のほうがよく思えてきて、最後は選びきれなくなり、全くテイストの異なる『FUTON』が漁夫の利で1位(笑)。田山花袋の『蒲団』…

充たされざる者(カズオ・イシグロ)

イシグロさんの第4長編。これで彼の作品を全部読んだことになります。しかし作者自身が「実験小説」と読んでいる本書は、長すぎです! 世界的に著名なピアニストという主人公のライダーが、中欧ヨーロッパのどこかであろう小都市で開かれる「木曜の夕べ」と…

ハル、ハル、ハル(古川日出男)

「この物語はきみが読んできた全部の物語の続編だ」という断言的な書き出しは、『サウンドトラック』の疾走感を予感させてくれましたが、期待はずれに終わりました。 いや、疾走感だけは、それなりにあったのかな。ただ、もう内容についていけません。作者は…

FUTON(中島京子)

文学史上有名ではあるけれど、読まれない本の代表ともいうべき田山花袋の『蒲団』を見事に「打ち直して」くれました。^^ オリジナルの『蒲団』は、ひそかに思いを寄せていた若い女性の弟子に去られた中年作家が、彼女が使っていた蒲団に顔をうずめて涙する…

ブーイングの作法(佐藤亜紀)

29歳の若さで『バルタザールの遍歴』を書き上げ、日本ファンタジーノヴェル大賞を1991年に受賞した佐藤亜紀さんが、92年~94年にかけて発表した、オペラと映画に関するエッセイ集。 そういえば、佐藤さんは『小説のストラテジー』で、「小説を味わ…