りぼんの読書ノート

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堕ちた天使アザゼル(ボリス・アクーニン)

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日本語の「悪人」からペンネームを取ったロシア人作家アクーニンによる、ファンドーリン・シリーズの第一作です。このシリーズ、今年になってから2冊翻訳されて人気も上々のようですが、5年前に本書が出版された当時はあまり話題にならなかったようです。

リヴァイアサン号殺人事件では安楽椅子探偵もののように、アキレス将軍殺人事件では「ルパン対ホームズ」のようにと、1作ごとに作風を変えながら展開される、このシリーズのスケールの大きさは、第1巻だけでは伝わらなかったのかもしれません。

本書はヤング・ボンドを思わせる駆け出しスパイ小説」のよう。新人警察官僚のファンドーリンは、衆人環視の中でピストル自殺した若い男が財閥の御曹司で、遺産は孤児支援財団に寄付されると知って捜査を進めます。

男の自殺の原因が絶世の美女アマリヤにあると知り、彼女の行方を追って遥か遠いロンドンにまで(19世紀末ですから、列車で欧州横断なのです)捜査に赴き、何度も生命の危険にさらされながら、国際的な秘密組織の存在にたどり着くのですが・・。謎の美女を登場させたり、意外な人物が裏切り者だったりと、スパイ小説の王道を歩みながら、ロシア革命をもくろむニヒリスト集団と国際的秘密組織の繋がりをほのめかすあたりは、当時のロシアの社会世相も反映されていますね。

さて、ファンドーリンは、ジェームズ・ボンドのような優雅なエンディングを迎えることができたのでしょうか。実は、そうはならなかったのです。最近の2作から先に読んだ方は、どうしてファンドーリンが心の傷を負い、若くして白髪になってしまったのかが謎だったのではないかと思うのですが、はじめにこんな悲しい事件があったのですね。

2007/8