りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

バーチウッド(ジョン・バンヴィル)

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カズオ・イシグロさんのわたしを離さないでを押さえてブッカー賞を受賞した作品が、佐藤亜紀さんの翻訳で出版されました。これはもう、読むしかありません。

3部からなっています。第1部は、かつては優雅な屋敷だったバーチウッドに戻ってきたガブリエルが、
無気力な父親と狂気の母のもとで、荒廃しつつある屋敷ですごした少年時代の記憶をたどります。

第2部では、双子の妹を探し求めて屋敷を飛び出したガブリエルが、サムエルのサーカス一座とともにアイルランドの大地を放浪します。「じゃがいも飢饉」によって、なすすべもなく餓死を待つ農民たちの間をさまよっていたサーカス一座は、地主やイングランドに対する反抗運動に巻き込まれて崩壊していくのですが、彼らが最後にたどりついたのは、すっかり荒れ果てたバーチウッドでした・・。

そして第3部で、隠されていた一族の秘密がついに明らかになるのですが、簡潔な訳者あとがきで、佐藤さんは、読み終えてから第一部を読み返すよう薦めています。

もちろん、そうしてみました。凄い! はじめに読んでいたときには、おぼろな少年時代の記憶が幻想的に思わせていたかのような家族の歴史の断片が、それぞれ違った意味を持ってくるのです。本書がブッカー賞を受賞した時には、批判も多かったと聞きますが、やはり受賞にふさわしい作品ですね。

2007/8