りぼんの読書ノート

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旅のラゴス(筒井康隆)

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この物語のおもしろい所は、時間の長さかもしれません。主人公のラゴスは、それこそ生涯をかけて旅をするのです。故郷を出たときに彼に思いを寄せていた少女は、彼が戻ってきた時には兄嫁となっていて、すでに60歳を超えてしまっているのですから。

そこから浮かび上がって来るものは、ラゴスの旅が持っている価値。そこに、人生をかける価値があるのでしょうか。それが、あるともないとも言えるのです。

遠い未来。おそらく、高度な文明を有していた人類が殖民した星での物語。長い時が過ぎ去って文明は失われ、人々の生活は中世的になっています。ただかつての文明の痕跡として、ある場所に「万巻の書」が眠っています。ラゴスの旅は、聖杯探求のよう。彼は「万巻の書」を求めて長い旅に出ているのです。人々に文明を伝えるために・・。

ではラゴスの旅は、人々に幸福をもたらしたのでしょうか。ラゴス自身には幸福をもたらしたのでしょうか。それが、そうとも違うとも言えるのです。終章で「最後の旅」に出るラゴスが何を求めていたかを思うと、否定的に思えてしまうのですが・・。

2007/8(機内にて)