りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

シッピングニュース(E・アニー・プルー)

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最後の一行がいいですね。「愛が苦痛や悲嘆を伴わずに生まれることも、時にはありえるのだ」。ラッセ・ハルストレム監督がケビン・スペイシー主演で映画化した作品ですが、内容はいたって地味。

主人公の30代後半の男性・クオイルが、「どんだけ~」と叫びたくなるほど情けなくて不幸なんです。大学を中退し、三流新聞に勤めるものの解雇され、惚れて結婚した女性は公然と浮気をしまくった末に2人の娘を残して事故死。追い討ちをかけるように、父と母も借金を抱えて自殺。ここまで不幸が重なったら、人生を投げるか、やり直すかしかない。娘たちのため、人生をやり直すことを選んだクオイルは、唯一の血縁の叔母とともに、父祖の地ニューファンドランドへと渡ります。

一族の名前がついた岬のあるその島で、唯一の新聞「港湾ニュース」に薄給で雇われ、叔母が何十年も前に捨てた祖先の家で暮らし始めたクオイルですが、たちまち島の厳しい生活にさらされるのは当然としても、同性の祖先たちが過去に、島でやりたい放題しまくっていた嫌われ者の一族だった・・などと聞かされると、ますますメゲてしまいますね。本書では、クオイルが島で経験するさまざまなエピソードが綴られるのですが、その内容は決して「癒し系の小説」ではありません。

北の大地に生きる人々は、時には残酷で、時には思いやりに欠け、時には互いに傷つけあいます。それぞれに一生懸命に生きてはいるのですが、遠慮会釈なく不躾な言葉を投げつけあい、他人の事故や不幸を笑いの種にする。「港湾ニュース」だって、人気のあるのはゴシップ記事なのですから。

でも、厳しい自然と同様、全然甘ったるくない人間関係が、クオイルの再生には良かったのかもしれませんね。夫に逃げられたウェイビィとの恋だって、まだ先の見通しは立たないし、娘たちとの関係もぎくしゃくしたままだけど、嵐が去った後、祖先の家が吹き飛ばされてしまった光景は、妙にすがすがしい。明日の新聞の見出しは決まったようです。「大嵐家を奪う、後は絶景が残った」と。^^ 

2007/8