りぼんの読書ノート

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カラヴァッジョ(ペーター・デンプ)

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バチカンで、「聖ペテロの磔刑「十字架降下」を見たことがあります。画面内の明暗の差が激しく、宗教画としては極めてドラマチックな作風のカラバッジョの絵画は、16世紀末までのルネサンス美術を葬り去って、17世紀バロックの幕を開けることになりました。

もちろん、当時の世相が大きく関係しています。フィレンツェをはじめとする都市国家郡が既に弱体化した後のイタリアは、いち早く絶対王政を確立したフランスや新大陸の富を吸収したスペインといった大国の草刈場となっていたのです。娼婦の死体をモデルに「聖母の死」を描くなど、聖なるものを聖的に描くことを拒んだカラバッジョの作風は、当時のイタリア市民から絶大な人気を博していたのですが、彼の人生そのものは、大国の意向の天秤の上に乗っていた当時のローマ法王たちに政治的に利用されてしまった・・というのが、本書の趣旨なのでしょう。

あくまでもカラバッジョを政治的な「駒」として使い捨てようとする法王と、法王の甥でありながら純粋にカラバッジョの絵を愛し、天才画家の人物を惜しむシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿との隠微な対立を軸にして、本書は描かれます。ちなみに、当時のシピオーネの邸宅は現在のボルゲーゼ美術館となって、カラバッジョの絵画を7品も有しています・・残念ながら未見です)

傲慢で激しやすく芸術に妥協することのなかったカラバッジョが、いかに易々と権力に翻弄されてしまったか。そこに、親身にカラバッジョの世話をする、弟子でもありモデルでもあった女性ネリメ(境遇や背景は違うけど、モデルはアルテミシア?)を配して、悲劇的な画家の後半生が描かれていきます。殺人の汚名を着せられて各地を放浪し、法王からの特赦状を受け取る直前に病で亡くなった天才画家の38年の生涯は、彼の絵画のように劇的ですね。

そういえば、今回の北イタリア旅行でカラバッジョを見ることはありませんでした。北イタリアのルネサンス都市にカラバッジョが少ないのは当然ですが。

2007/8