りぼんの読書ノート

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【再読】天使 & 雲雀(佐藤亜紀)

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旅行の最後に、佐藤亜紀さんの『天使』と『雲雀』を読み返してみました。さすがにはじめに読んだときほどの興奮を感じることはなかったものの、その分、彼女のキリッと締まった文体の素晴らしさと、展開の巧みさを、じっくり味わうことができたようです。

まず『天使』です。世紀の変わり目にハンガリーの片田舎で生まれ、ハプスブルグに仕える顧問官スタイニッツに、その超能力を見出されて諜報の世界に入っていく主人公のジョルジュ。彼の成長の過程を追う前半では、性格形成の為に必要十分なエピソードが過不足なく描きこまれます。圧巻は、スパイとしてセルビア義勇軍に参加して以降、終戦を巡る策謀から、両親との邂逅を経て、宿敵メザーリとの決着をつけるエンディングまで。よくぞここまで完結明瞭な描写で、第一次大戦の裏面史を描けるものです。

『雲雀』では、『天使』に先立つ両親のエピソードや『天使』の行間に潜むエピソードを紹介した上で、ハプスブルグ家崩壊にからむ、やはり裏面史を作り上げた上で、拍手喝采を送りたくなるほどの見事なエンディング。

佐藤さんは「一番好き(ただし友人にはしたくない)」と言っても過言ではないほど素晴らしい作家なのですが、一時は、本人自身が「自殺を考えたこともある」というほど、出版社から無視されていました。でも、昨年の小説のストラテジー、今年のミノタウロスの出版、さらにはバーチウッドの翻訳が相次いでいます。ようやく、彼女の才能に対して正当な評価が行われるようになってきたのでしょうか。もっとたくさん書いて欲しいし、もっと多くの方に読んで欲しい作家です。

2007/8再読(帰国便機内にて)