りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

【アンソロジー】哀愁のヨーロッパ

しろねこさんからの「アンソロジー」バトンです。
学生時代に、シュペングラーの『西洋の没落』を読みました。同じ頃に、サンタナの『哀愁のヨーロッパ』を聞きました。それに影響されたのでしょうか。私の中での当時まだ見ぬヨーロッパは、「一世を風靡した大女優が、老いて心静かに余生を送る」ような、もの静かなイメージが出来上がってしまいました。その後、実際に体験したヨーロッパは、決してそんなものではなかったのですが・・。

大胆にもサンタナの名曲と同じく『哀愁のヨーロッパ』と名づけたこのアンソロジーでは、各時代のヨーロッパを代表していた都市の、当時の雰囲気を今に伝えてくれる作品を選んでみました。読書とは、「どこでもドア」でも「タイムマシン」でもあるのですから。

短編集ではないので、装丁なんて想像もつきません。せめてその時代を代表する絵画でも、表紙につけてみましょうか。

イタリア(フィレンツェ)15世紀末

・作品:辻邦生「春の戴冠」
・表紙:ボッチチェリ「春」
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イタリアといえばルネッサンスルネッサンスといえばフィレンツェ塩野七生さんの『ローマ人の物語』や『海の都の物語』も棄てがたいのですが、ここは、時代を代表した画家であるボッチチェリの「ルネッサンス精神を永遠のものとして留めたい」との想いを描いた秀作を選びました。
表紙はもちろん、ウフィツィの至宝、ボッチチェリの『春(プリマベーラ)』。

フランス(パリ)18世紀末

・作品:ツヴァイクマリー・アントワネット
・表紙:ヴィジェ・ルブラン「アントワネットと子どもたち」
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パリのイメージを代表するのは、なんといってもフランス革命アメリカの独立宣言と並んで、「自由・平等・博愛」の精神が、近代の幕をあけました。『ベルサイユの薔薇池田理代子)』もいいけれど、ここは、悲劇の王妃マリー・アントワネットの実像に迫った、ほとんど文学作品とも言える評伝にしましょう。
表紙は、アントワネットを描き続けた宮廷画家の代表作。3人の子供たちに囲まれ、彼女の母としての強さも感じさせる作品です。

オーストリア(ウィーン)1910年代

・作品:佐藤亜紀「天使」
・表紙:クリムト「接吻」
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中欧を代表する都市ウィーンは、ハプスブルグ家と切り離しては考えられません。第一次世界大戦の混乱の中で崩壊する二重帝国を舞台にして、影の世界で暗躍するサイキック・ウォーズはいかが? 佐藤さんの、余分な説明を一切排除した、読者に媚びない文体は最高です。
表紙はやはり、世紀末ウィーンを代表する名作で。

スペイン(バルセロナ)1945年

・作品:カルロス・ルイス・サフォン「風の影」
・表紙:アントニオ・ガウディサグラダ・ファミリア教会」
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1945年のバルセロナというだけで、心が妖しい気分になります。第2次大戦の戦火こそ免れたものの、内戦の記憶もいまだ新しく、ファシストの厳しい弾圧にあえぎながらも、立ち上がろうとしている街。失われた本に綴られた「内戦時代の切ない恋」を乗り越えようする若者たちの想いが、街の生命力と重なります。
表紙は、バルセロナ生まれの「ミロ!」といきたいところですが、街の象徴であるガウディの教会で。

ドイツ(ベルリン)1970年代

・作品:レン・ディトン「ベルリンゲーム」
・表紙:「ベルリン天使の街」のポスター
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ドイツ統一が成った今でも、ベルリンが、冷戦時代を象徴していた「分断の街」であった事実は変わりません。冷戦の主戦場であり、 スパイたちが暗躍していたロマンと裏切りの街・・とのイメージが強いのですが、実際はどうだったのでしょう。巨匠の手による傑作スパイ小説3部作(『ベルリンゲーム』、『メキシコセット』、『ロンドンマッチ』)の第1作目。
表紙は、悲しみを浮かべた中年男の天使が教会から街を見下ろしている、モノクロ映画のポスターでどうでしょう。

チェコプラハ)1970年代

・作品:ミラン・クンデラ「笑いと忘却の書」
・表紙:「カレル橋の天使像」
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東欧からは、百塔の町・プラハに登場してもらいましょう。「笑い」と「忘却」というモチーフが、さまざまなエピソードで物語られる本書で、著者は、「プラハの街のあちこちに立つ天使像は、カトリックの占領軍である」と述べています。火刑に処せられたヤン・フス宗教改革に、ソ連の戦車に踏みにじられた「プラハの春」が二重写しになるのです。

イギリス(ロンドン)現代

・作品:ゼイディ・スミス「ホワイト・ティース」
・表紙:ターナー「雨、蒸気、スピード-グレート・ウェスタン鉄道」
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実は、一番悩んだのがロンドンです。ヴィクトリア時代のロンドンをディケンズばりに描く、現代の名手サラ・ウォーターズとも思いましたが、やはり、「移民の世紀」を代表する作家の一人を選びましょう。「爆弾テロに巻き込まれるバングラデシュ移民2世」という深刻なテーマながら、コミカルなタッチで、現代ロンドンに存在する異文化の軋轢と融和を描き出しました。人種は違っても、笑えばみな「白い歯」を持っているのです。
表紙は、全てが光の中に溶け込むような、テート美術館所蔵の、ターナーの代表作。

ぜひ、続きを読んでみたいのは、佐藤亜紀さんの『天使』、『雲雀』の続編です。40代の壮年となったはずのジョルジュが、ナチスによるオーストリア支配や、第二次世界大戦へと続く時代をどう生きたのか。佐藤さんは、どんな物語を紡ぎだすのでしょうか。