りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

時間のなかの子供(イアン・マキューアン)

イメージ 1

童話作家として成功しているスティーブンとジューリーの夫婦の幼い娘ケイトは、3年前にスーパーマーケットの混雑の中で誘拐されてしまっています。では本書は、失われた娘を求める夫婦の苦闘と再生物語なのかというと、全然そうはならないところがマキューアン流。

夫婦関係が緩やかに壊れていく中で、スティーブンは見かけた少女たちの中にケイトの面影を「発見」して騒動を起こし、ジューリーは別居を選択して引きこもってしまいます。皮肉なことにスティーブンは首相の諮問機関である「子どもの教育に関する学術会議」のメンバーであり、子どもに関する無意味な議論を延々と聞かされる立場。

また、スティーブンを学術会議に引き入れた旧友の政治家は、首相の引止めを断って引退してしまい、どうやら幼児への退行現象を起こしている様子。さらに老いた両親を訪れたスティーブンは、彼を生むかどうか悩んでいる若き日の両親の口論を幻視するなど、「子どもつながり」とはいえ、脈絡のないエピソードが続きます。

なんとなく感動的なエンディングへと結びついてはいくのですが、後の大傑作贖罪はもとより、愛の続きアムステルダムと比較しても、プロットに纏まりを感じさせません。

とはいえ、ひとつひとつのエピソードがアイロニーに溢れている様子は、すでに「マキューアン」流。後の大成を感じさせる作品ではあります。

2013/8