りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アバウト・ア・ボーイ(ニック・ホーンビィ)

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亡父の印税で高等遊民生活をおくっている36歳のウィルは、シングル・マザーとの気楽な関係に味をしめて、シングル・ペアレンツの会に乗り込みます。このためにシングル・ファーザーになりすますのですから、動機も不純で、行動は変態的。しかしそこで出会った女性フィオナと息子マーカスとの交際が、彼を変えていくことになります。

フィオナは「70年代のレコードと80年代の政治観と90年代のフットクリーム」から成り立っている」ヒッピー崩れのような女性。マーカスは精神的に不安定な母の影響で学校に溶け込めずにいるのですが、フィオナは気付いてもいません。

「お気楽独身男」のウィルにとっては、フィオナとの交際よりも「お悩み少年」マーカスとの擬似的な父子関係のほうが重要だったようです。フィオナにはあまり魅力を感じなかったウィルは、後にレイチェルという別のシングル・マザーと恋愛したりするのですが、マーカスには責任を感じ続けるのですから。

その結果、3人とも「何かを失って何かを得る」ことになるんですね。ウィルは自分の殻とクールさを失って、人間関係を見つけます。マーカスはそれまでの自分を失って普通になり、ほかの12歳の子どもと変わらない凡庸さと頑丈さを身につけます。フィオナは、マーカスの一部を失った代わりに、被害者意識から遠ざかっていられるようになりました、

エンディングは少々意味不明であり、薄いのか深いのか判断できない作品でした。でも映画化されたくらいですから、たとえ擬似家族であっても人と触れ合うことの重要さは時代受けするテーマなのでしょう。

2013/8