りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

雪と珊瑚と(梨木香歩)

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珊瑚21歳。生まれたばかりの娘・雪をかかえたシングルマザーは、お金も食べるものもなく追い詰められていました。しかし、裏通りの住宅街で「赤ちゃん、お預かりします」の張り紙を見つけたことから彼女の物語が動き始めます。

張り紙の主・薮内くららは、とにかく謎の女性です。出世払いで雪を預かってくれるという好意を示し、おいしいスープをご馳走してくれます。それはまるで魔法のスープ。母親からはネグレクトされ、雪の父親にも去られてひとりぼっちだった珊瑚に新しい出会いをもたらし、かたくなだった珊瑚の心を開いていったのですから。

バイト先のパン屋の店長やバイト仲間、無農薬野菜農家の人などと出会った珊瑚は、経営のことなど何もわからないけれど、自分のスタイルでカフェを開きたいと思うのです。「シングルマザーがカフェを開く話」というと引いてしまうけど、珊瑚の場合にはそれに生活がかかっていますから、決してお洒落でもバブリーでもありません。できるだけ自然な雰囲気で、仕事帰りの疲れた人や、アレルギーの子どもを持つ親にも来てもらえるような店をめざすのです。

フランスの修道院暮らしが長かったというくららさんは西の魔女がちょっと若くなった雰囲気で、珊瑚はからくりからくさの主人公たちの若い姿のようで、それでもこの物語に「結界」を感じないのは、珊瑚の心が開いていくからなのでしょう。梨木さんらしくないテーマに思えましたが、意外と梨木さんらしい物語だったのかもしれません。

2013/2