りぼんの読書ノート

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修道士カドフェル5 死を呼ぶ婚礼(エリス・ピーターズ)

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本書の舞台は1139年の、ウェールズとの国境に近いイングランドの町。この時代のイングランドは、ヘンリー1世の死で1135年にノルマン朝が途絶えた後、先王の甥のスティーブンと、先王の娘マティルダが王位を狙って争った「無政府時代」。両者の和解の産物であるプランタジネット朝の成立が1155年ですからまだまだ騒乱は続くのですが、とりあえず本書では「時代背景」程度。

結婚式をあげるためにシュールズベリの修道院を訪れたのは、初老の資産家ドンヴィルと40歳以上も年の離れた、まだ18歳のイヴェッタ。彼女は、十字軍騎士を祖父に持つ家系なのですが、両親の死によって後見人となった欲深い伯父夫婦によって、意に染まぬ結婚を押し付けられようとしていたのです。ところが結婚の前夜、ドンヴィルは何者かによって殺害されてしまい、イヴェッタに心を寄せていた従者の青年ジョスリンに嫌疑がかかるのですが、果たして真相は・・。

ミステリとしての深さはそれほどでもない物語でしたが(このシリーズに、そんなものを期待してはいけないようです)、今回の物語で重要な役割を果たしたのはハンセン病患者を収容していた、修道院附属の施療院。頭巾とガウンで顔も身体も隠して、名前すら失った者たちの共同体の包容力が無実の容疑者を救うのです。

前巻でカドフェルの助手を務めていたマークは、施療院に出向して、人間的にもひとまわり大きくなったようです。一方カドフェルには、代わりの助手のドジぶりに耐える試練が・・。ドンヴィルの20年来の情婦であった、ソールズベリのエイヴィスという女性は、情婦という言葉からは想像もつかない逞しいキャラで、今後も登場しそうな感じです。

2009/7