りぼんの読書ノート

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ファミリーポートレイト(桜庭一樹)

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桜庭さんの凄みは「書くことへの執念」と「命の煌き」を感じさせてくれることにあるように思います。彼女を「ストーリーテラー」と思っては、本質を見誤るような気がするのです。

本書は2部構成。「第一部 旅」では、情痴殺人を犯したと思われる母親マコに連れられて、逃亡の旅を続ける少女・コマコの5歳から14歳までが描かれます。老人ばかりの村、葬式婚礼の風習がある町、豚の王国(養豚の村)、盲目の大家が暮らす家、大きな屋敷の「隠遁者」として暮らす生活といった魔術的な世界で、「真紅」を汚し続け、娘を虐待し続ける母親を「唯一絶対の存在」として慕う少女は、何を思い、どう育ったのか。

「第二部 セルフポートレイト」では、作家としてデビューする17歳から34歳までの駒子が描かれます。引き取られた父親の家には帰らず学校で生活し、卒業後に勤めた文芸バーで語った虚言を文章に書きとめて新人賞に応募。編集者との出逢い、直木賞と思える大きな文学賞の受賞、ついでのようにした結婚と妊娠。いつしか母が亡くなった年齢に達した駒子が、彼女を身ごもっていた20歳の母親が出演していたフィルムを(すなわち最初のファミリーポートレイト)を見つけるところで物語は終わります。

駒子はこの後も書き続けることができるのでしょうか。作家とは「生きる痛みを物語に引き取らせ、物語を必要とする人間に与える者」と言う駒子のことですから、もちろん書くことはやめないのでしょう。そして駒子の姿は桜庭さんと重なっていきます。駒子の半生は、「嘘しか言ってはいけないゲーム」で、著者が語った「自分の生い立ち」のようにも思えてきます。

2009/7