りぼんの読書ノート

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楊令伝9(北方謙三)

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楊令率いる梁山泊と、童貫率いる宋禁軍の戦いに、ついに決着がつきます。互いに大きな犠牲を出しながら正面から対峙する形を作り上げた両軍の最後の戦いは、ナポレオン戦争を俯瞰した『戦争と平和』と、兵士の立場から見た『パルムの僧院』を合わせたような、緊迫した素晴らしい描写でした。

しかし、物語は続くのです。既に朽ち果てていた屋台骨を支えていた禁軍の事実上の解体に加え、金にも攻め入られて「死に体」となった宋には「もはや倒す価値もない」として、梁山泊は新しい国づくりを始めます。ただし、その範囲は今までに占領した狭い地域のみに限定されています。

戦いの中で「国とは何か」を自問し続けていた楊令が打ち出したのは、政治的には合議制や徴兵制などの近代民族国家をも思わせる要素を取り入れ、経済的には日本から西域を結ぶ通商を柱とする「新しい国の形」だったのですが、この時代にそれが成立するのでしょうか。不吉にも、ドイツ農民戦争の最中に理想国を作ろうとして敗れた『悪魔と神(サルトル)』のゲッツを思い出してしまいました・・。

一旦は開封の包囲を解いて北帰した金軍でしたが、宋の違約を咎めて再南下。時代はもう「靖康の変」の直前です。「岳飛と秦檜の物語」が正史のメインストーリーとなっていく中で、楊令と梁山泊はどのような役割を果たすのでしょうか。彼らとは違う形で「次の時代」を見据えているかのような青蓮寺の李富と李師師の動きはジョーカーになりそうです。

2009/7