りぼんの読書ノート

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楊令伝12(北方謙三)

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宋末の混乱期、限定された地域で「民のための国」を実現すべく、日本と西域を含む交易の道を築くことによって民を富ませる政策を進める楊令ですが、梁山泊が天下統一を目指さないことに対して、内部からも不満の声があがってきます。

一方で、周囲の情勢は刻々と変わっていきます。南方では、宋室に連なる趙構を奉じた李富によって、南宋という国家が急速に立ち上がろうとしていますが、北宋の太祖の7世孫を皇太子に迎えようとの動きには陰謀の匂いが漂います。この少年、ほぼ間違いなく、李富と李師師の息子なんですから・・。

中原には、宋の地方知事であった劉豫を皇帝に立てた斉が、金の傀儡国家として生まれますが、領内には梁山泊のみならず、岳飛や張俊が率いる軍閥も存在していて、安定には程遠い状態。岳飛は金軍を破り、張俊は梁山泊を攻めますが鮑旭と秦容によって撃退されます。

西方に目を転じると、西夏の政情は相変わらず安定していませんが、さらに西では耶律大石の西遼が徐々に国家の体をなしつつあります。このあたりは梁山泊の交易の生命線ですから、外交という名の謀略も激しく行なわれます。

金の内部も一枚岩ではありません。太宗ウキマイ派のダランと、太祖アクダの遺児たちの側につくネメガの間の権力争いに加えて、アクダの遺児たちの内部でも複雑な感情が渦巻いているようです。そんな中で、思慮を欠いた金軍が梁山泊の商隊を襲い、一気に緊張が走ります。

梁山泊の世代交代もいっそう進んでいきます。鮑旭が、王定六が、杜興らが命を落とし、燕青は暗闘で視力を失います。本巻の末尾に、楊令、公孫勝、武松、呉用、宣賛の5人が梁山泊のあり方について、それぞれの思いを語り合う場面がありますが、情熱の光はまだ、時代の闇の行く先には届いていません。

2010/6