りぼんの読書ノート

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去年はいい年になるだろう(山本弘)

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何とも謎めいたタイトルですが、これはタイムマシンが登場するパラレル・ワールドもの。2001年9月11日、24世紀の地球から「ガーディアン」と名乗るアンドロイドの大群が現れます。圧倒的な技術力を持ち、過去の歴史を熟知している彼らは、世界中の軍事基地をたちどころに制圧しただけでなく、テロリストをはじめ犯罪を起こそうとしている者たちを事前拘束。もちろんあのテロは起こらずに、歴史はオリジナルから分岐していきます。

ガーディアンの目的は決して人類征服ではなく、「人類を不幸から守ること」。それは「人間に危険が及ぶことを見過ごせず、人間に幸福をもたらすことに喜びを感じる」とのロボットの使命感に基づいているんですね。アシモフの「ロボット工学三原則」に似ていますが、もっと緩やかなもののようです。

ガーディアンたちは10年間この世界に留まって、次は2000年に、さらに次は1999年に、というように歴史を順に遡って「より良い世界」へと改変していくのが使命です。今回の2001年が初回ではなく、2025年(だったかな?)を起点にして、既に何度も歴史改変を行なっているとのこと。未来から見て、21世紀はじめは「転機」だったのですね。

確かに彼らの活躍によって、テロは防止され、地震などの大災害には事前に避難勧告が出され、もっと個人レベルでの事故や急病なども防げるようになっていきます。でも歴史改変には反作用もあり、本来であれば幸福になるはずの人が、そうならないケースもあるのですから、問題は複雑です。SF作家であった主人公もそのひとりかもしれません。確実な未来予測によって多くの想定が封じられてしまうのですから。著者の家族や知人が実名で登場するこのあたりは「私小説」風。^^

やがて、ガーディアンに対して反発を覚える団体も登場して・・。どうやら、9.11テロとそれに続く報復戦争を経験していない2001年という時代が悪かったようです。実際の不幸を経験していない者に、「放置すると不幸になる」と言っても信じてもらえないのと一緒。

著者は、9.11テロを境にして「明るい未来」を信じられなくなったとのこと。そもそもなぜ未来の人類とロボットは、歴史改変を行なおうとしたのでしょう。アイの物語と同様の不幸な未来が、人類を待ち受けていると思えてなりません。

2010/6