30年以上も前に、高倉健と北大路欣也のダブル主演で映画化された作品です。当時の出演者を見ると、三國連太郎、島田正吾、大滝秀治、丹波哲郎、藤岡琢也、前田吟、小林桂樹、加山雄三、森田健作、緒形拳、栗原小巻、加賀まりこ、秋吉久美子といった大スターが勢ぞろい。当時の東宝が総力をあげた、超大作映画ですね。
日露戦争を目前に控えて陸軍が行なった雪中行軍演習は、青森と弘前の連隊を競争させ、雪の八甲田山で出会わせようというものでした。著者はまず、これが「師団命令」ではなく「師団長の希望」であって、責任の所在が不明確であったことを指摘します。30名弱という少数精鋭で臨んだ弘前への対抗意識を煽られた青森は、200人を超える中隊規模で実施を決定。さらに、指揮官である中隊長の上官の大隊長が「同行」という、異例の編成であったことが語られます。
案の定、青森側の指揮命令系統は狂いを生じ、雪中行軍に無知な大隊長によって一行は死地に追い込まれます。吹雪によって視界は失われ、氷点下の中では磁石も効かず、骨まで凍らすような寒気の中で道に迷い、200人近くの人命が失われていく描写には、鬼気迫るものがあります。不運なことに、その日に記録的な寒冷前線が八甲田山付近を通過していたといいます。このあたり、いかにも長年気象庁に勤務していた新田さんらしい指摘です。
本書で批判されるのは、青森連隊の愚かしい行為だけではありません。階級の差が死傷率の差となって現れる装備や待遇の違い、序列による死後の祭祀料の差、事件の隠蔽を試み、露見後は美談に仕立てあげた旧陸軍の体質そのものが批判されます。そもそも、装備や事前準備を軽視したままで大自然に向かうという、旧陸軍というより人間の傲慢さに対する非難が、全体を貫くトーンなのです。
2010/6