りぼんの読書ノート

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凶犯(張平)

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十面埋伏では、中国の地方都市を舞台にした司法官僚の犯罪をリアルに描き出してくれた作者ですが、その数年前に書かれた本書は、山村部の社会問題を取り上げています。

ここで「凶犯」と言われているのは、中越戦争で片足を失って傷痍軍人となり、国有林監視員として雇用されながら、村の有力者である「四兄弟」を射殺した李狗子(リー・ゴウズ)。本書は、犯行に至る直前の「犯人の視点」と、事件直後の捜査に当たる「巡査の視点」を交互に綴り、中国山村部で起きた犯罪の背景にあるやりきれない状況を描き出します。

背後にあったのは、村ぐるみで行われていた、国有林からの盗伐でした。前任者たちは賄賂をもらって見て見ぬふりをしていたのに、正義感の強い狗子はそれを許せなかったのです。村を牛耳る「四兄弟」は、狗子を痛めつけようとして、電気を止め、水を止め、食料品を売らせないようにします。それでも屈しない狗子に対して、村ぐるみで残虐なリンチにかけて致命傷を負わせるのですが、瀕死の狗子は、山道を這って往復し、猟銃を持ち出して「四兄弟」を射殺するのです。

四兄弟の悪人ぶりもひどいけど、度重なる狗子の訴えを握りつぶしておいて、事件の後始末に汲々とする、地方官僚の不正にまみれた生き方は腹立たしい。そして、四兄弟を恐れて彼らの言うなりになる村人たちの生き方はやるせない。何より「よそもの」に対する残虐さには、おぞましさを感じてしまいます。

でも、これが現実なのでしょう。実際の事件をモチーフにした作品とのことですが、かなりノンフィクションに近いようです。昨今、世界中で事件となっている有害食品の問題なども、この延長線上にあるわけです。単なる推測にすぎませんが、この本が出版できたのは、党中央と軍については「正義」として描いているからでしょうか。とにかく問題を提起することからはじめないと、何も変わらないのでしょうし。

2007/9