偶然手に取った『わが手に雨を』が、バンドを外されアルコールに溺れる女性ミュージシャンが、家族の過去ときっちり向き合って再生するという内容の、思いのほか読み応えのある小説だったので、驚いたことがあります。
本書も女性を主人公にしたハードボイルド・アクションです。イギリス秘密情報局の特務官であるタラ・チェイスは、いわば現代の「007」。「殺しのライセンス」を持って、イギリス政府の指示で「荒事」をこなす役割。ロンドンの地下鉄を襲った同時多発テロに対する報復として、イギリス政府は、犯行声明を出したイスラム過激派の宗教的指導者の暗殺を決定。チェイスを中東に潜入させます。
ところが、複雑な時代に生きる「現代の007」は、冷酷な国際政治の論理に翻弄されてしまうのです。母国イギリスに見捨てられて売られたチェイスは、かろうじて直属の上司が開いてくれた隘路をたどって起死回生を諮りますが、それは事実上、死地に赴くことを意味していました・・。
この種の本では、ストーリー展開もさることながら主人公の魅力が問われます。美貌の暗殺者チェイスの魅力は、劇画ならともかく、この本ではまだそれほど見えてきません。シリーズ化するには、まだ物足りないかな。本書のタイトルは最低。原題の「A Gentleman's Game」のほうが、女性主人公が味わう不条理感を表現してピッタリしているのに!
『守護者(キーパー)』にはじまるボディガードシリーズが人気の著者とのことですが、そっちは未読。男性主人公のハードボイルドは、普通ですしね。
2007/9