りぼんの読書ノート

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おだまり、ローズ(ロジーナ・ハリソン)

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「子爵夫人付きメイドの回想」との地味な副題がついていますが、もともとこちらがオリジナルのタイトル。本書は、邦題のほうが原題を上回っている稀な例ですね。「おだまり、ローズ」とのタイトルに、型破りな貴婦人と、それに負けていないメイドの関係が凝縮されているようです。

主人公は子爵夫人ナンシー・アスター。もともとアメリカ人で離婚歴もあり、機知と美貌を兼ね備えながら、とてつもなく気まぐれで我儘な雇い主は、メイドから見たら最低最悪。しかも、イギリス初の女性下院議員として超多忙であり、クリスチャン・サイエンスの熱心な信者として超頑固なのだから、始末に負えません。

しかし、彼女に35年もの間使えたメイドのローズだって負けていません。「おだまり、ローズ」の罵声にもひるまずに言うべきことを言い続けて、信頼を勝ち得ていきます。本書は、ヨークシャーの労働者階級の出身ながら、才能に恵まれ、好奇心が旺盛で気が強い女性の成功物語でもあるのです。本書は、ローズ自身の回想録として、1975年に出版されました。

2人の女性主人公の影で、2人の男性脇役もいい味を出しています。1人は、屋敷内のすべての出来事を完璧に取り仕切っていた、執事のリー。日の名残りの主人公を思わせる人物は、イギリスの「古き良き時代」を体現しているようです。もうひとりは、子爵のアスター。やや地味ながら活動的な妻を支えて家長としての役割を果たした生き方は、アメリカ出身ながら理想的イギリス紳士のよう。

著名な人物たちのエピソードにも事欠きません。夫人の親友バーナード・ショーも、夫人が大嫌いだったチャーチルも登場。戦争中の苦労や活躍も、戦後の衰退ですら、生き生きと描かれています。アスター家のクリブデン屋敷は、「プロヒューモ」事件の舞台でもありました。

最後まで喧嘩をしていた2人でしたが、夫人の死後に懐かしい日々を回想するローズの文章からは、過ぎ去った日々と失われた時代への感傷だけでなく、夫人への思慕が伝わってきますね。翻訳も素晴らしいのでしょう。すがすがしい幕切れまで、良質な映画を見たような読後感です。

2014/12