りぼんの読書ノート

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蛹令嬢の肖像(ヘザー・テレル)

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フェルメールを思わせる17世紀オランダの画家によって描かれた少女は、蝶へと生まれ変わろうとしている蛹を見つめていました。「蛹」という通称で呼ばれているその絵画は、どのような思いで描かれたのか。かつての所有者は、ナチスの時代になぜ「蛹」を手放すことになったのか。現代を含めた3つの時代が交錯する物語です。

現代の主人公は、「蛹」の所有権をめぐる訴訟を起こされた名門オークション・ハウスに雇われた、ニューヨークの弁護士マーラ。オークション・ハウスの法務担当者となっていた学生時代の恋人マイケルと再会して再び恋に落ちたマーラは、完璧な書類に基づく完璧な弁護戦術を準備し、公私ともに順風万帆と思っていたのですが・・。

現実問題として、ナチスによって強奪された美術品の返還を求めることは難しいようです。本書の主人公は図らずも、返還を阻止する側に立ってしまったのですが、自身が弁護士でもある著者は、「このような弁護は道義的に断りたい」と言っているとのこと。

果たしてマーラは、マイケルの裏切りとオークション・ハウスの陰謀とに気づき、弁護士としてのキャリアを犠牲にする覚悟をするのです。それは、17世紀オランダで市長令嬢との恋をあきらめさせられた画家から、第二次大戦中のベルリンで生命と絵画の両方を奪われたユダヤ人所有者に至る、「虐げられた者たち」の立場に身を置くことだったんですね。

良くできた美術ミステリですが、「蛹令嬢」とのタイトルはいただけません。「キワモノ」のように思えてしまいますので。

2014/12