りぼんの読書ノート

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ゼラニウムの庭(大島真寿美)

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18世紀の作曲家ヴィヴァルディと、彼が音楽を指導したヴェネチアの孤児院の女性たちとの交流を描いた前作ピエタが、2012年本屋大賞3位となった著者の新作です。

小説家のるみ子は、祖母・豊世(とよせ)の死の直前に、「一族の秘密」を書いてほしいと頼まれます。祖母には、年をとる速度が異様に遅いために人目を避けてきた双子の妹・嘉栄(かえい)がいたのです。思えば一族の歴史は、実家にはめったに寄り付かず、真相を知らされるまではるみ子も「親戚のおばさん」と思っていた女性を中心に回っていたのでした。

ファンタジーのようですが、著者の狙いは「時間の肌触り」を描くことにあったようです。時間の流れ方が他人と違う女性を、祖母、母、孫(るみ子)の3代の女性と関わらせることで、「人生という時間の感覚」を意識させようと試みたというのですが、「ヴァンパイアもの」との違いは「リアリティ」ということなのでしょう。

小説家のるみ子が「公表しないつもりで書いた文章」という形式をとっている本書は、ラストに異なる視点を持ってくることで、「書くこと」の意味を問い直しているようです。そちらのほうが、著者の「真のテーマ」だったのかもしれません。

2014/12