りぼんの読書ノート

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家族を駆け抜けて(マイケル・オンダーチェ)

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スリランカで生まれ育ったオンダーチェが帰郷して自分の家族のルーツをたどり、小説にした作品です。もともと「オンダーチェ」という名前はオランダ系ですが、彼の一族は現地女性と混血した「バーガー人」であり、特権階級ではあったもののセイロン独立とともに没落したり国外脱出を余儀なくされた「よそ者」なんですね。

本書はオンダーチェさんの作品らしく、自分の記憶と一族や友人たちの証言の間を揺れ動く断片からなっています。もちろん虚構も含まれています。

中心人物が父親のマ―ヴィンであることは明らかです。2つの大戦の間の享楽の時代に、イギリス留学に出ながら入学すらせず遊び暮らし、両親の怒りをかわすために婚約し、すぐに破談にし、次いで別の女性と衝動結婚。セイロンの軽騎兵隊に入隊しながら、軍務にもつかずに泥酔と悪戯を繰り返してあげくの果ては汽車を乗っ取って勝手に運行する始末。

その父の飲酒をやめさせようと、子供たちを味方につけて勝ち目のない戦いを続け、結局最後には離婚してイングランドに戻っていった母親ドリス。

しかし子供たちには、破天荒な母方の祖母ララのほうが強い印象を残したようです。財産を失ってからもかつての交友をたどって何でもし放題で、どこへでも行き放題。やはり飲酒癖があり、嘘つきでいつも騒ぎを起こす、嵐のような女性。最後には洪水の中に入っていって溺れ死んだとされていますが、この部分は著者の創造だそうです。ではなぜ著者はそんなフィクションを作ったのか?

読者はそれらの断片から浮かび上がってくるものを読み取らねばならないのでしょう。本書は、著者が亡き父親との和解を試みた小説であるように思えますが、そのように言いきってしまうにはあまりにも多様でハイブリッドな小説なのです。ひとつひとつのエピソードを楽しんで、時代の雰囲気を味わえばそれで十分なのかもしれませんが・・。

2012/4