りぼんの読書ノート

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風車小屋だより(ドーデー)

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ピーター・メイルさんの現代プロヴァンスの物語の次は、19世紀プロヴァンスの作品読んでみましょう。舞台はアルルから8キロほど離れた丘の上にある風車小屋。小説ではドーデーが「購入して住んだ」との設定になっていますが、実際の所は、知人の住居がそのちかくにあって、時々訪れていたとのこと。

本書は24話の短編からなっています。風車小屋に住んでの感想や、地元で聞き入れた話や民話、さらにはコルシカ島アルジェリアに旅行した話などがランダムに詰まっているのですが、全体として当時のプロヴァンスの姿が浮かび上がってくるんですね。

あばずれ女に恋して死んだ青年の物語アルルの女は、著者自身による戯曲とビゼーの音楽とで有名になりましたが、原型はとっても短い作品です。リュブロンの羊飼いがお嬢様への憧れを素朴に語る「星」や、自由に憧れた娘の山羊の悲しい末路の「スガンさんのやぎ」、蒸気で動く製粉工場に仕事を奪われた風車小屋の「コルニーユ親方の秘密」、恐ろしいネタでいっぱいと思われていた批評家が肌身離さず持っていたのは修道院に入った娘からの手紙だったという「ビクシウの紙入れ」などは綺麗な作品。

みんな変わり者の「ボーケールの乗合馬車や、作り話で信者たちを信仰に導く「キュキュニャンの司祭」や、パリとプロヴァンスのどちらがいいか揺れ動く「兵舎なつかし」などは、当時の人々の気質を描いているようです。

この地方の北風と同じ名前を持つ詩人ミストラルを訪ねて未発表の詩を読み、百姓の息子である詩人が「往時のプロヴァンスを再興した」と感激する話は、きっと実話なのでしょう。プロヴァンス語というのは古い言葉なのですね。その3/4以上もがラテン語そのままとは、驚きました。

2012/4