りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

凍原(桜木紫乃)

イメージ 1

主人公は30歳の女性刑事、松崎比呂。彼女は17年前に当時10歳だった弟を釧路湿原で亡くしたことに、まだ気持ちの整理がつけられずにいます。

札幌から釧路に戻ってきた比呂は、釧路湿原で発見された30代男性の殺人事件を担当しますが、その男性は青い目をしていました。彼は64年前ソ連軍に追われて樺太から北海道に命からがら引き上げてきた長部キクの孫であり、行方の知れない祖母を尋ね回る中で被害にあったということがわかってきます。

引き上げの混乱の中で脱走ソ連兵に犯されたキクは、留萌で世話になっていた家に子どもを生み捨てて札幌でホステスとなり、その後の消息が途絶えていたのです。一方キクが置き去りにした娘ゆりを預かった田口つや子も、夫の暴力と姑の苛めに耐え切れずにゆりを置いて家を飛び出していました。

生みの母と育ての母との両方から棄てられたゆりは、成長して旭川に嫁いだものの、青い目の息子を産んで夫から不義を責められて離婚。「どんな関係だって目の色ひとつで簡単に壊れる」との思いを抱いて育った息子の洋介が、母ゆりの死後、出生の真相をたどって祖母キクを探していたのです。洋介が掘り出して命を失うこととなった秘密とは、いったい何だったのでしょう。

比呂は捜査の過程で、湿原に飲み込まれた弟の死の真相をも知ることになります。本書は、北の大地に生きる人々の「家族の絆」を描き出すことにも成功しています。松本清張さんの社会派ミステリを思わせる、骨太の作品ですね。ただ、殺人の原因と実行犯との関係にはちょっと無理があったかな。

2012/4